あやめも知らぬ恋

蛍の意見を取り入れながら店員はテキパキと私のための衣装をそろえていく。

普段は無口なのに、今の蛍は気合いの入った様子で店員に指示しだす勢いだ。

楽しそうにしているのはうれしいが、普段との差にもの寂しくなる。

蛍の気持ちがわからず、私と一対一で話すのがダメなのかもしれないと悲観的思考になってしまった。


(紫暮様と喋ってる)

私と話す時より、よっぽど紫暮と仲が良さそうだ。

特別紫暮が蛍を甘やかしたり、仲良くしようとしているわけでもないのに何故だろう?

母親でもなく、顔も知らぬ父親の姉と言われても蛍はピンとこないはず。

そうして考え込んでいるうちに蛍が決めたワンピースに着替えることになり、店員の手を借りてファスナーをあげた。


せっかくだからと店員は軽く粉をはたいて私に化粧を施し、髪もちゃちゃっと結いあげる。

その間、目立つ赤い瞳について店員は触れてこなかった。

鬼子として指をさされる花純に違和感を感じさせない対応は、高級商業地として発展を遂げた地だと感服させられた。


「お待たせしましたぁ! 旦那さん、奥様とっても素敵に仕上がりましたよ!」

フィッティングルームから出て、店員の手に支えられながら紫暮の前に出る。


「どうだ、花純。はじめての洋装は……」

言葉は続かない。

空色のワンピースに白いスカーフの襟元。

足は黒いエナメルのパンプスを履いており、慣れていないのか小鹿のように震えてしまう。

店員がそっと私の手を紫暮に引き渡し、器用さの欠けた距離で二人は見つめ合った。

顔が変わっていても私にとって紫暮に変わりない。

茶色い瞳の向こう側に、どこまでも羽ばたけそうな空を見て憧憬を抱いた。

「想像よりずっと……こう、くるものがあるな」

「く、くるものですか……?」

なんとか視線をそらそうと上目になり、表情が落ちつかずに口角が上がり下がりを繰り返す。

足元まで見られると、恥じらいを覚えた私は髪を指に巻きつけて俯いてしまった。