(私にはもったいない。それにそこまで紫暮様にお世話になる気はないもの)
鬼子が竜人の番になるはずがない。
誤りが解決して、蛍を楓と再会させたら速やかに紫暮のもとから去る気でいた。
やさしい心づかいは、正しい番に向けてほしいと願って。
(そう……思ってるのに……)
胸が痛むのはなぜだろう?
鬼子は鬼子らしく、身を引くのが正しいのに紫暮と目が合うたびに我を忘れて見入ってしまいそうになっていた。
「どう扱われていたかは察していたが、もう周りを気にしなくていい」
「えっ? きゃあっ!?」
紫暮の手が伸びてきたと思えば肩を引かれ、たくましい胸に鼻先をぶつけてしまった。
涙目に顔をあげると、情けない私の顔を瞳に映し込んだ蛍と目が合う。
とっさに後ずさろうとすれば、紫暮が蛍ごと満悦そうに私を抱きしめてきた。
(ひぃあ!? ま、まって……! こんなのおかしいわ!)
「ほら、行くぞ!」
「ああああの! 紫暮様!?」
「これは俺がやりたいことだ。番を構いたくなるのも竜人の習性だからあきらめてくれ」
ますます番と認識されることに胸が痛む。
さらに蛍に対して父親のように接してくれるので、感謝が尽きないと苦しくなってしまう。
蛍を抱っこしたまま、紫暮は私の震える手を引いて歩き出した。
己の願いなんて持ち合わせていない。
蛍が幸せであればと。無事に楓と再会して、親子で笑ってくれればいいと。
自分がどう幸せになるかなんて考えたことがなかったため、”番を愛している”と心を示す紫暮の笑顔は晴れ渡る空のようにキレイに見えた。



