あやめも知らぬ恋

(鬼子だもの。外で万が一バレてしまったら大変なことになる)

見た目はなんら周りの人たちと変わりない。

特別身体能力に影響があるわけでもないため、実感は伴わないが、時々暗闇に血を凝縮したみたいな瞳が浮かび上がる時、現実を思い知らされて目を逸らしていた。

加えて銀座に行くと言われても、みすぼらしい自分が行っていい場所とは思えずに紫暮の顔をまともに直視出来なかった。


「私は大丈夫です。も、もしよければ蛍ちゃんと一緒に行ってもらえませんか?」

「もちろん、蛍も連れていく。蛍、甘いものは好きか?」


紫暮は声を張って、家の敷地を囲む土塀沿いで水撒きをする蛍を呼ぶ。

私が紫暮に気をとられている間、水撒きでどんどん表口から離れていた蛍のもとに大慌てで走る。


「蛍ちゃん! 危ないから離れちゃダメよ!」

「……ふん」

柄杓と木桶を奪われ、蛍はふてくされて唇を尖らす。

後から笑って追ってきた紫暮のもとへ走り、たくましい足に密着するように飛びついた。

「おお、蛍はパワーがあるな。親譲りだろうか」

「す、すみません! もう……蛍ちゃんってば」

「構わない。子どもというのもかわいいものだ」


そう言って紫暮は蛍を抱き上げ、器用に背中を撫でながら私に手を差しだす。

「外に連れて行ってやれなくて悪かったな。今日は一緒に過ごそう。人の地にいれるうちに色々見て回るのも良いだろう?」

「私は……」

外に出るのは好奇心より恐怖が上回る。

”鬼子”が露呈する可能性を危惧している……なんて考えは建前でしかない。

久美子のように華やかな美しさもないので、みすぼらしい姿をさらすくらいなら影で十分だと思っていた。

指をさされないようひっそりと生きているうちに、自信なんてものは砂のように崩れてしまっていた。


「銀座とは何でもそろうのだろう? 花純に似合う服でも探そうか」

「いえ! 私には今ある着物だけで充分すぎるほどです!」

「この二週間、まったく用意した着物を着ていないではないか。だから気に入るものを選んでほしい」

「そんな贅沢はいりません! 私なんかが……」

着飾ることをためらう必要のない美しさ。

それを持ちあわせていないのだから、古着で汚れてもいい小袖で構わない。

すでに紫暮には充分よくしてもらっているので、これ以上願うものはなかった。