(なんてかわいいの! 蛍ちゃん、かわいい~!!)
不器用にも心の距離を縮めようとする姿にときめかない方が無理だ。
楓と似てるのは顔だけだと、心の中で嫌味を漏らす。
早く戻ってこないと、蛍のかわいい姿を見過ごすばかりになるのだから……。
「花純! 蛍!」
「紫暮様?」
玄関口から紫暮が出てくると、器用に飛び石の越えて一気に私の隣に立つ。
身体能力はやはり竜人だと日常のささいなところからも感じられ、毎度驚かされる。
やけに機嫌のよさそうな紫暮に首を傾げていると、腕の中にいた蛍が飛び出して黙々と水撒きを再開した。
必死な後ろ姿に口角がゆるむと、立ちあがって紫暮と向き合い、どうしたのかと問いかけた。
「出かけるぞ」
「えっ? お出かけ……ですか?」
この二週間、紫暮と関わることも多かったがまだ気恥ずかしさが上回って打ち解けるまでに至っていない。
距離感の問題なのだろうが、紫暮のボディタッチは初対面のときと変わらずに大胆だ。
そのたびに私は心臓が飛び出しそうになることに耐えかねて避けてしまう。
蛍を交えて眠る時、堂々と竜人の尾を着物から出してくつろいでいるが、番だと主張した通りに毛先は薄紅色をしていた。
それを見ていたたまれなさに背を向け、太ももをすり合わせでソワソワしてしまうのだが……。
「銀座に行こう」
「銀座ですか?」
唐突な誘いに最初に感じたのは「なぜ?」という疑問だった。
銀座はまさに最先端の街で、裕福な華族がこぞって集まる文明が開けた象徴だ。
建物がレンガ造りで、馬車と歩く道が分かれた美しい場所だと噂では耳にしているが、実際に足を運んだことはない。
基本的に南条家から出ることはなかったため、銀座という時代の象徴に行く発想はなかった。



