あやめも知らぬ恋

程度がわからないから那波に任せろと一言で片づけてしまうが、本心は違うだろう。

私が最優先にするのは蛍との交流であり、楓に会うまで守り抜くことだ。

それまでの時間、それ以降の時間。

私は紫暮でも那波でも頼っていいのだと、そう言われているような気がして胸が熱くなった。

「お料理は私にさせてください」

「花純……!」

「配膳や後片付けを手伝っていただけると助かります。那波さん、お願いできますか?」

「もちろんです!」

私の心持ちが落ちついた発言を受け、那波は安堵の笑みを浮かべて肩をおろす。

おそらく那波は料理が苦手だ。とはいえ、何もしないわけにもいかないので試行錯誤したのだろう。

やわらかい微笑みを向けてくる那波に、私は南条家の時と異なり一人ではないのだと実感した。


「無理はしないように」

言いくるめられた紫暮は、やけくそに後頭部をかくと耳を赤くしたまま背を向ける……がすぐに振り返る。

「食事はともに。お前は俺の番なのだから」

「は、い……。ありがとうございます……」

お礼をすると、紫暮は肩を強張らせてすぐに去ってしまう。

紫暮なりに私の望む距離を見いだそうとしてくれている。

強引なところもあるが、やさしい人だと知り自然と表情をほころんでいった。



***

食事を終え、那波に風呂場へ案内される。

(お米。おいしかったなぁ……)

南条家では食事も人目を盗んででしか食べられなかった。

炊き立てのお米を食べたのはいつぶりだろうかと、蛍と二人で湯に浸かって考える。

蛍がタオルを湯面に浮かせ、空気で膨らませて指でつつく。

南条家よりも大きなお風呂で、蛍は気分が良いのか顔の半分を湯に沈めてブクブクと泡を吐いた。

口数は少ないが、蛍の子どもらしい姿に私はようやくこの決断をしてよかったと安心を得た。

蛍に浴衣を着せて風呂から部屋に戻る。