あやめも知らぬ恋

「カエデ……」

「そうね。楓も紅葉も一緒ね。蛍ちゃんによく似合ってる」

ここにある着物や小道具はすべて紫暮が用意してくれたもの。

偶然かは判断出来ないが、子ども用の着物や玩具を見て今までにないほど目頭が熱くなった。

がんばろう。蛍を守ると決めたんだ。

楓に再会して、一度思いきり楓を殴り飛ばしたい。

お前はそれだけ無責任に周りに寂しい思いをさせたんだと訴えてやりたかった。

じんわりする胸の温かさと、感傷に浸りそうな葛藤を振り払うように目元を強く擦り、気合を入れなおさそ、蛍と向き合って目の高さを合わせる。



「ね、蛍ちゃん。これから夕飯を作ろうと思うのだけど、手伝ってくれる?」

夕日が沈もうとするとカラスが鳴き声をあげて集団で飛び去っていく。

私にとってははじめて南条家以外で過ごす日だ。

対してわずか三歳にしてあちこちを転々とする蛍の年齢にそぐわない諦めた表情に絶え間なく胸が痛む。

楓が見つかるまで、持てる愛情すべてを蛍に注ごうと覚悟を決め手を差しだすと、蛍はおずおずと手を重ね、怯える赤い瞳に私を映していた。


楓の子ども。

私たちと同じ、鬼子の血を継ぐ小さな女の子。


***


蛍を連れて台所へ向かうと、すでに那波が食事の支度をしていた。

とはいえ、すべて出来合いのもののようで、だし巻き卵や煮魚等を器に盛りつけている最中であった。

「すみません。代わります」

「! いいえ、結構です。花純様の手をわずらわせるわけにはいきませんので」

”花純様”と呼ばれて心臓が跳ねる。

「いいえ、まだ結婚はしておりませんので……」

そう言って那波から箸と料理の入った木箱を受け取ろうとする。

那波は使用人そのものの私の姿勢に困惑しながらも、後ろに隠れる蛍に目を向けてため息を一つ。