あやめも知らぬ恋

仮にも番に会えたと思えば子連れ。

番であることを否定され、身を置くのは子どものためだと提示されれば心境は相当複雑なはず。

それなのに嫌な顔ひとつ見せず、むしろ蛍にまで穏やかに微笑みかけて受け入れてくれる姿勢には胸がキュッと締めつけられるくらい痛くなった。

何はともあれ、私はまだ子育てに慣れていない。

那波が面倒をみるのを助けてくれるのはありがたい話ではあるが、紫暮の言いぐさだと蛍と関わる機会そのものがなくなりそうだ。

それでは本末転倒だと感じると同時に、自分が蛍を守って楓と再会させたいと願ったのだから妥協出来ない点だった。


無理くり紫暮の腕から抜け出すと、部屋の隅で様子見をしている蛍のもとへ行き、前からそっと抱きしめて紫暮へと振り返る。

「ありがたいお話ですが、私は蛍ちゃんのそばにいたいと考えております」

「別に日中は構わん。だが夜は俺とともに過ごせ」

「わ……私は……」


どう答えるのが正しいのだろう?

世話になっている以上、紫暮の言葉が最優先なのは理解している。

求婚相手が番否定に加え、子連れで下仕え希望と出だしからわがまま言い放題。

紫暮はかなり譲歩してくれており、ちゃんと考えて私の願いをすべて叶えようとしてくれている。


それもこれも私を番だと信じきっているため。

尾が反応する以上、疑う余地がないのだろう。

鬼子であり、人間の私には尾がなく番の反応がないため、騙しているようで心苦しかった。

それだけ紫暮は魅力的で、包容力のある異性だと実感するほどに陰りは濃くなった。


「まぁ、急には言わん。だが花純はもう俺の妻だ。相応に……いや、かなりの覚悟をして受け入れてもらわねば困る」

「こっ……! ほ、蛍ちゃんの前でそのようなこと!」

「夫婦とは愛し合うものだ。今、その子どもに必要なのは愛情を信じることだろう?」


どうして私が行き着けない言葉をサラッと言えるのだろう。

蛍に伝えてあげたくても言葉にする勇気がなかった。