あやめも知らぬ恋


***

翌日、那波が上空から猛スピードで帰ってきた。

車は代行に任せていち早く戻ってくることを優先したようだ。

「目の前で番としての死を宣告する。ずいぶんと残酷なことをなさりましたね」

「よく気づいたな」

かき集めた紫暮の片翼が崩れて砂になったもの。

もうどうしたって戻らないそうだ。


「紫暮様並みの方が翼を斬れば、近くにいる竜人であれば気づきます。まったく、しばらく大騒ぎになりますよ」

蒼龍族の長候補になるくらいの人物だ。

それだけ大変な事態になった。

これが共に罪を背負うことかもしれないと、そっと紫暮の二の腕に手を添えた。

那波が砂に触れると、胸元に隠していたペンダントを外す。


「自分のときは相手が本当に死んでしまいましたから。今回の場合はどうなのでしょうね」

「……すまない」

「選んだのは紫暮様です。……まったく。前代未聞のことをされました」


ペンダントは二つ。

一つは黒い砂の入った小瓶がさがっている。

もう一つは空き瓶で、那波は小瓶のフタをとると水銀色の砂を手のひらにすくって中に詰めた。

以前、那波が教えてくれた亡くなった番のこと。

次の縁に繋がりはしても、一度番を失った事実は変わらない。

半身とも呼べる存在を失った那波からは、紫暮の決断はどう映る――?


そんなこと、私に聞けるはずもなかった。

小瓶をもって那波はこの場を去る。

きっと梨亜奈に”紫暮様の遺灰”として小瓶を手渡すのだろう。

それが那波なりの配慮であり、紫暮へ罪を見せつける皮肉さがこもって見えた。

――もう戻れない。でも、戻りたくない。

それくらいがんじがらめで、深く交差してしまった恋だから。



「花純。俺の妻として、ともに生きてくれ」

「はい」

この痛みとともに、生きていく。

欲しかったものを手に入れた代償として、善人面と、気弱な自分を失った。

焦がれたものを手放さない代わりに、誰かを傷つけてこれからを生きていく。

いつかきっと、この身を罪に焼く火が来たとしても。

この手だけは離さないと、私は紫暮の手を掴んで指を絡めた。