***
瀧澤家の屋敷上空にたどり着くと、直接庭に降り立つと梨亜奈が腕を組んで待ち構えていた。
目尻をつり上げてズンズンと歩み寄ってくる。
カナリア色のツインテールを大きく揺らしていた
(どうしよう。緊張しちゃう……。どう、気持ちを伝えれば……)
紫暮に恋した久美子を利用し、私を排除しようとしてきた人。
だが久美子を利用した以外、行動は理にかなっている。
本来、番とは唯一無二。
私のような存在が現れることが異常だ。
ホンモノの番なのに、ニセモノに阻害されれば怒り狂っても致し方ないこと。
でも逃げたりしない。
奪った側の責務。
それ以上に私が紫暮を愛してしまったから、神様が定めたことに抗ってでも気持ちを貫きたいんだ。
「私は紫暮様をお慕いしています。ご存じの通り、私は竜人ではございませんので番の常識には当てはまりません」
「それで? 好きだからってアタシが番であることは変わらないの! 泥棒猫! 旦那様だってすぐに目を覚ますわ!」
何を言われても譲れない。
こんなにも私のために尽くし、助けてくれた人を好きにならずにはいられない。
ずっと焦がれていたものを与えてくれた。
たとえ”鬼の誘惑”が原因だとしても、望み望まれればもう止められないの。
「梨亜奈」
ひりつく空気の中、紫暮が鈍く重苦しい声で梨亜奈を呼ぶ。
それに梨亜奈が顔を向けると、突然紫暮の背から翼が飛び出し、尾を生やす。
「だ、旦那様……?」
紫暮の尾の先端が薄紅色に染まっている。
番に反応を示しているとひと目でわかる色に、梨亜奈も触発されて尾を染めた。
(当たり前だけど、見るのは辛いな……)
楓を助けることが出来て、蛍と再会できて、ずっと目標にしていたことは叶った。
今度はきっと自分のための幸せを見つめあうときなのだろう。
自分のことから目を逸らしたくない。
それだけ恋焦がれてしまったのだから、心を強く持とうと手に汗を握った。
「お前には悪いことをしたと思っている。だからもう自由になってくれ」
紫暮の様子がおかしい。
堂々とした背中を見せる人なのに、今の声は震えていて覇気がない。
「紫暮さ……」
手を伸ばして顔を覗おうとして――断絶する鋭い音が弾けた。



