あやめも知らぬ恋


***

瀧澤家の屋敷上空にたどり着くと、直接庭に降り立つと梨亜奈が腕を組んで待ち構えていた。

目尻をつり上げてズンズンと歩み寄ってくる。

カナリア色のツインテールを大きく揺らしていた

(どうしよう。緊張しちゃう……。どう、気持ちを伝えれば……)


紫暮に恋した久美子を利用し、私を排除しようとしてきた人。

だが久美子を利用した以外、行動は理にかなっている。

本来、番とは唯一無二。

私のような存在が現れることが異常だ。

ホンモノの番なのに、ニセモノに阻害されれば怒り狂っても致し方ないこと。


でも逃げたりしない。

奪った側の責務。

それ以上に私が紫暮を愛してしまったから、神様が定めたことに抗ってでも気持ちを貫きたいんだ。


「私は紫暮様をお慕いしています。ご存じの通り、私は竜人ではございませんので番の常識には当てはまりません」

「それで? 好きだからってアタシが番であることは変わらないの! 泥棒猫! 旦那様だってすぐに目を覚ますわ!」


何を言われても譲れない。

こんなにも私のために尽くし、助けてくれた人を好きにならずにはいられない。

ずっと焦がれていたものを与えてくれた。

たとえ”鬼の誘惑”が原因だとしても、望み望まれればもう止められないの。



「梨亜奈」

ひりつく空気の中、紫暮が鈍く重苦しい声で梨亜奈を呼ぶ。

それに梨亜奈が顔を向けると、突然紫暮の背から翼が飛び出し、尾を生やす。


「だ、旦那様……?」

紫暮の尾の先端が薄紅色に染まっている。

番に反応を示しているとひと目でわかる色に、梨亜奈も触発されて尾を染めた。


(当たり前だけど、見るのは辛いな……)

楓を助けることが出来て、蛍と再会できて、ずっと目標にしていたことは叶った。

今度はきっと自分のための幸せを見つめあうときなのだろう。

自分のことから目を逸らしたくない。

それだけ恋焦がれてしまったのだから、心を強く持とうと手に汗を握った。


「お前には悪いことをしたと思っている。だからもう自由になってくれ」

紫暮の様子がおかしい。

堂々とした背中を見せる人なのに、今の声は震えていて覇気がない。


「紫暮さ……」

手を伸ばして顔を覗おうとして――断絶する鋭い音が弾けた。