あやめも知らぬ恋


おだやかな風に髪がそよいでいく。

燃える桃色に空色がかかって、まるで燃えようとしている心を水でかき消そうとしているみたい。

真っ赤に染まる手前の、はち切れんばかりの血潮が叫ぶ。――私の恋だ。


「これで花純は正式に俺の妻だ」

そう言って紫暮はわざとらしく音をたてて私の頬に唇を押しあててくる。

銀色の髪がくすぐってくるたびに、この人はわざと翻弄してくるんだと少し唇を尖らせたくなった。


(ちょっとくらい意地悪言ってもいいよね?)

敏感に反応してしまう肌から気を逸らすために、深呼吸をしてからまだ煮え切らない思いを紫暮にぶつけることにした。



「梨亜奈さんはどうされるのですか?」

まだ解決していない、番の問題。

二人とも番の反応は示していたが、なぜか紫暮に気持ちが伴わなかった。

その不思議に答えは出ていない。鬼の誘惑だとしても理を崩せるほどの威力はないはず……。

どれだけ私が紫暮を好きでも、放っておけない問題だった。
紫暮にとっては突かれたくない嫌な面だ。

眉根にシワを寄せ、口を開いてはなかなか声が出せずにいた。


「それはもうどうするか決めた……が、覚悟がいる」

ふてくされたボソボソの声で紫暮が呟く。

「覚悟……ですか?」

「……口にしたくもない。信じろ」

「はい」

こうして少年みのある表情を見せられると、特別になれた高揚感を味わえる。

どうかこの愛らしい竜人様を誰よりも近くで見ていられますように。


(あぁ、なんて空は広いのだろう)

さえぎるものなく、太陽と月の満ち欠けで色を変えていく。
薄らと月が空に浮かんでいる。

今宵は満月だといつの時代も人々を魅了する輝きにホッと息を吐いた。