あやめも知らぬ恋

鬼喰いとの戦いが終わり、光莉は御殿の者たちから事の詳細を説明するよう求められてしまう。

だが「そんなことより娘に会う方が大事」と言って、さっさと御殿から出てしまった。


(勢いがいい。本当は楓がいればすぐにでも出ていくつもりだったのかも)

媛巫女は窮屈な思いをしており、自由奔放な楓に惹かれてしまうのも無理はない。

鬼喰いの消滅で焦る御殿の者たちに囲まれる姿を見て、ほんの少し羽根を伸ばしたくなる気持ちがわかってしまった。


「話が長い。まとめてから話に来い」

うだうだと話に収集がつかずにいると、紫暮が面倒だと一喝して私を抱っこして飛び立ってしまう。

「おっ! 紫暮にいさんいいねぇ!」
「きゃっ!?」

それに調子にのって楓も光莉を抱っこして、蛍をその上に乗せて身軽に逃げ出した。

「きゃはは! はやいはやーい!」

楓の足は速い。

紫暮と飛ぶのとはまた違い、大地を駆ける速度に蛍はいつも以上にはしゃいでいた。

追手をものともせずちょこまか逃げ切る姿は、上空から眺める側としても痛快だ。

蛍もようやく両親に抱っこされて、愛情をめいっぱいに受けて笑顔を輝かせていた。


(那波さん、置いてきちゃった……)

「那波なら車でゆっくり戻ってくるだろう。気にするな」

考えていたことを見透かされ、心臓が跳ねてしまう。

時々紫暮には心が丸見えなのではないかと冷や冷やしてしまう場面があった。


「……約束、叶えてくださりありがとうございました」

言葉にするには少し時間がかかってしまう。

でもこれは絶対に言葉にしたかったので、ゆっくりと酸素を吸い込んで噛みしめるように伝えた。