楓たちに負けず劣らずの圧迫具合は、私の足を地面から離してしまう。
「もし鬼が楓から出なかったらどうするつもりだった!? 俺は花純を優先してたぞ!」
「は、はぃ……」
「そもそも鬼の怨念を誘惑するってなんだ!!」
龍の尾に勢いをつけて岩壁を叩きつける。
強烈な一撃音のあと、パラパラと砂利が転がり落ちる音がした。
息を荒くする紫暮に、胸がチクリと痛んで顔向けできない。
(震えてる……)
抱きしめてくる身体が震えていることに気づく。
よく見れば鱗の代わりに鳥肌が立っており、上手くいったから良いものの相当恐れていたと理解した。
鬼の怨念を倒しても、私が紫暮にかけたであろう”鬼の誘惑”の効力は切れていない。
ニセモノのままでも、紫暮は私を選んでくれるだろうかと、鬼喰いを倒すときよりも大きな不安を抱いて身体をひねらせた。
「私、紫暮様が好きです。紫暮様は私のこと、好きですか?」
「え……あ……それは――」
「あーっ! やっぱりまだ言わないでください!」
訊ねておきながら恐怖が上回り、紫暮の口を両手で塞ぐ。
それに眉をしかめて紫暮はの手を掴むと、指先を軽く甘嚙みした。
「きゃあっ!?」
「ふんっ。龍をなめるな。一度覚悟をもったことだ。……仮に相手が同族だとしても、二度とその力は使うな。いいな?」
強めの物言いに首を傾げる。
だんだんと意味を理解し、頬が熱くなって口元が緩む。
誘惑したいのは紫暮だけ。
紫暮に向ける思いはホンモノだから、その反対が叶えばいいと願いを込めて大好きな人の胸板に顔をうずめた。
頭上からくすりと穏やかな息づかいが触れた。
「帰ろう。もうすぐ契約完了だ」
「はいっ!」
楓と光莉を連れて、帰ろう。
愛しいみんなの子・蛍のもとへ。
誰一人欠けることなく。



