あやめも知らぬ恋

(つつ、つまりそういうことよね? いや、変よ! 番は勘違いなのだから阻止しないと!)

鬼子が番であるはずがない。

尾が反応を見せているが何かの間違いだろう。

その幸運と呼ぶべきかわからない間違いに罪悪感を抱きながらも、蛍を守れる環境は手に入れたと安堵の息をつく。

とはいえ、間違いを正さないのは紫暮に申し訳ないので少しずつでも認識を改めてもらえるよう努力していこうと決意した。

そうとなればやるべきことを考えていこうと一人百面相をしていると、突然紫暮が後ろから抱きしめてきて、体温の熱さに喉奥が火傷する。

「紫暮様!? あ、あの……離してください……」

「やっと手に入れた。ずっと会いたかったんだ。俺の番」

出会ったばかりでこの遠慮のない溺愛行動はなんだ?

突き飛ばそうにもその立場にない私はいたたまれなさに顔を両手で隠すしかない。

加えてこの場には蛍がいる。

何も言ってこないが、蛍に出会ったばかりの男女がこうも境目なく密着している姿は見させたくないと、私は身を捩って紫暮の腕の中から抜け出そうとした。


「あのっ……ほ、蛍ちゃんもいますから! まさか紫暮様もこの部屋で休むなんてことは……」

「那波が蛍の面倒をみる」

「……那波、とはいったい」

「自分が」

唐突に出てきた女性の名前に目を丸くしていると、部屋の隅に控える側仕えの方が一歩前に出る。

声は中性的、笑うと天の御使い。

高身長でスラリとしているが、男性とも迷わせる端正さにようやくその人が那波という名と認識した。

「あっ……すみません。えっと、面倒をみていただけるとは……」

「ご挨拶が遅れました。自分は紫暮様と乳兄妹で、幼き頃より傍にお仕えしています」

「そう、ですか……」

竜人にも階級があるようで、この様子だと紫暮は身分が相当高そうだ。

なおさら鬼子である私が番であるのは間違いだと申し訳なくなり、顔をあげられない。