「ダメ! そんなの絶対にダメなんだから!!」
もっとも嫌な結末を拒絶し、私は下唇を噛みしめて前に飛び出す。
「楓! 私が絶対に助けるから! 絶対にダメよ! 蛍ちゃんの父親として責任取りなさいよバカぁ!!」
何の力もない。
だがあきらめも悪いんだと私は腸が煮えくり返る思いで叫ぶと紫暮の腕に手を添えて一心に見つめる。
空色の瞳に、二本角を生やした赤い瞳の鬼子が映りこむ。
「紫暮様。私、あきらめません。私に出来ること、考えますからどうか力をお貸しください」
私の願いに紫暮は目を見張り、くしゃりと吸い寄せられるように笑った。
翼をはためかせ、地面を割りそうな爪で土を削り高く飛び上がる。
泉の水を巻き込んで風が紫暮を身体を覆い、水銀色の鱗を全身にはやした巨大な龍が顔を出した
竜人は普段こそ人の形をしているが、本来の姿は天翔ける龍。
神に近しき存在。
人の姿では二対の翼を生やしていたが、龍体となると滝を連想させる水をまとった胴体の長い姿になっていた。
紫暮の頭に乗った私の視界には水面に映った星の煌めきが広がる。
何も持たぬ私に、永遠に続く輝きを魅せた。
感極まって泣きそうになりながら紫暮の二本角に触れる。
「紫暮様。私は鬼子です。だからとても素敵なあなたを誘惑したのかもしれません」
返答はない。だが望みは決まっている。
「鬼として、あれらを誘います。楓から鬼たちを引き離してみせます。……蛍ちゃんとの約束、楓を連れて帰る。あとは、お願いしてもいいですか?」
視界が揺らいで、何が光っているのかわからない。
清らかな水の流れに身をゆだねているような感覚に陥った。
物言わぬ龍は胴体を反らし、薄紅色に染まった尾を左右に揺らしてから私の濡れた頬を拭う。
ニセモノでも愛されていると、やさしさに心が満たされていき口角がゆるんだ。
「ありがとうございます」
この人を好きになってよかった。
たとえニセモノだとしても、簡単に譲れるような恋ではないと、私は不敵に笑うと今にも暴走しそうな楓に手を伸ばす。



