あやめも知らぬ恋


『”花純、逃げろ。鬼喰いと化した以上、鬼の血を引く花純を取り込もうと動くんだ”』

私は生粋の鬼ではなく、鬼子としても無力に等しい。

”鬼の誘惑”とやらが能力として判明したが、私自身扱い方をわかっていないので無用の長物と化していた。


(それでも……!)

冷たい汗が背中を伝う。

身を斬られるような想いで楓の元へ駆けたい。

だって私と楓はずっと同じ時を生きてきた片割れだから!

何者にも変えられない血を分け合った双子なのだから!


「楓! 私は!!」

楓に諦めない意思を伝えようとして、紫暮が腕を伸ばして止めにかかる。


「媛巫女。最初は鬼喰いに力をぶつける気でいたようだが、それをすれば楓も死ぬ。その上で問う」

光莉を一瞥すると、この場で誰よりも冷静な思考で私たちの気持ちを立てようとした。

臆する光莉に、紫暮は私の腰に手を回し、トンッ……と地面を蹴って飛び上がる。

そして後退して光莉の隣に並ぶと、その身をさらに龍体化させて本来の力をむき出しにさせていった。


「俺は鬼喰いを倒せる。だが楓と鬼喰いを分離する力はもたない。媛巫女が鬼喰いを倒せなかったのは、楓が取り込まれたから。そういうことだな?」

「はっ、はい! 楓くんが取り込まれ、元々いた鬼たちを楓くんが人身御供となって抑えました」


楓と鬼たちの集合体”鬼喰い”を倒すため、光莉は紫暮に協力を仰いだ。

しかしそれは楓が取り込まれていない前提の話。

愛する人が人身御供となって鬼喰いを抑えているとわかった今、光莉は戦う術を失っていた。

それでも強気でいなくてはならないと、責任感から光莉は弓を構え、楓に矢を向ける。

だが腰は引けており、指先も震えてとても矢を放てる状態ではなかった。


「わたしには楓くんと鬼たちを引き離す力がありません。紫暮様の力があれば確実に鬼喰いは倒せます。ですがそれは……」

――楓の死を意味していた。