(ここに鬼喰いが……!)
「きゃあっ!?」
岩の前まで駆けると、すぐ後ろから甲高い女の悲鳴がした。
振り返ると、祝詞を唱えていた巫女たちが一斉に立ち上がり媛巫女を抑えようと襲っていた。
「どうしたのあなたたち!? 鬼喰いをおさえなくては……!」
『”これ以上はダメだ。抑えが効かなくなる”』
巫女たちの声は本人たちのものではなく、まるで怨霊のような恐ろしい声が重なる。
知らぬ声のはずなのに、私は重低音の音を耳にしてハッとして前を見据えた。
「楓? 楓でしょ?」
私の問いに”それ”は答えない。
光莉を押しだそうとする力だけが強まり、じりじりと扉の向こう側へ弾かれそうになっていた。
――バシャン!
すべてを流す水の渦が現れ、光莉を拘束する巫女たちを壁際に押しやる。
操られた巫女たちの中には足の骨が折れたものもいたが、痛みを感じていないのか、異常な揺れ方で迫ってきた。
「あなたたち! しっかりなさい!」
わらわらと光莉に襲いかかってくる巫女たちだが、キリがない。
紫暮は舌打ちをすると背中からしなやかな翼を生やし、巨大な尾で地面を叩きつけて横にスライドさせた。
大地から湧き出るように水の刃が操られた巫女たちを襲う。
殺傷能力はないため、力ずくで壁に叩きつけ、そのまま拘束具として動きを封じることに成功した。
キリのない状態は回避できたが、大幅に戦力ダウンしてしまう。
「媛巫女。岩の向こう側でいいか?」
「はっ……はい!」
媛巫女はすばやく体勢を整えると、紫暮の四方に防御壁を展開していく。
岩の向こう側から襲いかかってくる邪気を弾く。
(楓……。ここにいるの?)
先ほどの声は楓のものではなかったけれど、双子の直観が楓と訴えていた。
だが岩の向こうに抑え込まれているのは鬼喰いだ。
同じ場所から二つの気配が入り混じっているような……。
いや、それ以上の禍々しい気配がいくつも絡み合っていた。



