あやめも知らぬ恋


「大丈夫ですよ。竜人様の協力を得られることになりました。鬼喰いを今度こそ仕留めます」


光莉は聖人君主の凛々しい顔をして従者たちの乱れを制す。

すぐさま鬼喰い退治を行なうと命じ、複数名の巫女をつれてさらに奥へ進む。

天然の石を積み上げて出来た洞穴があり、秘められた地下への階段の前で止まる。

すでに禍々しい気配が伝わり、足元から蛇が這いずり回り気味の悪さに身が震えた。

降りれば降りるほど不快さは濃くなり、肌をしびれさせる感覚に口元を抑える。

食べたものが嘔吐物として出てきそうなのをこらえ、手をマスク代わりにして少しでもマシな空気を取り込もうとした。


「この先に鬼喰いがおります」

出入り口に灯り火をともし、光莉は冷静な顔をしてこちらに振り返る。


「一番に狙われるのは花純さんでしょう。鬼喰いの名のとおり、”鬼の気配”に反応しますから」

「大丈夫です。的になることは慣れていますから」

「そんなことに慣れなくていい」

「きゃっ!」

背後から大きな手がまわってきて、私の視界を覆ってしまう。

後ろに引かれて瞬きを繰り返すと、今にも堪忍袋の緒が切れそうな紫暮が私の耳元に唇を寄せてきた。


「忘れるな。これが終わったら条件なしの夫婦になるからな」

「――はい」


くすぐったい言葉だ。甘すぎて胸焼けしてしまう。

紫暮は無自覚に強気なロマンチストになる時があり、それを間近で見られるのは妻の特権だと浮き立つ気持ちになった。

扉の向こう側は禍々しい気配があり恐ろしくはあるが、紫暮がいれば大丈夫だと前を向いた。

強い心持になった私に光莉はうなずき、従者に扉を開くよう命じる。

重々しい鉄の扉が開かれ、視界に飛び込んできたのはしめ縄の施された巨大な岩だった。

すぐさま巫女たちが火をともし、すでに張られた結界の配置に着くと祝詞を唱えだす。

静まり返っていた空気が一変、縦に大きく揺れ出すと岩の頂点に入っていた亀裂がメキメキと音をたてた。