あやめも知らぬ恋

改めて紫暮の元でで世話になることとなり、やたら生活感のないお屋敷で唯一側仕えをしている人に部屋へと案内された。


紺碧色の短くそろえた髪に、色白の横顔。
美しさは天女のようだと眺めていると、またニコリと微笑まれる。

「こちらが蛍様のお部屋になります」

小さな三歳児の手を引いて部屋に入る。

いつのまに用意したのか、部屋は子ども仕様となっており、物珍しい西洋のぬいぐるみや新しい着物が揃えられていた。

蛍は私の手を離れ、あたりをウロウロして畳に座りこむ。

何も手に取ろうとしないので、私は不思議に思い隣に腰かけた。

「何か気になるのはなかった?」
「…………」

仮とは言え住まいを手に入れても変わることなく、蛍は私の問いに答えない。

少しは心を開いてくれたかと思ったが、またいつも通りの機嫌に戻ってしまったようだ。

それは胸をヤスリで擦り付けたような鈍く耐え難い痛みを与えてきたが、蛍の気持ちを理解していく努力がまだまだ足りないんだと奮起する。


「欲しいものがあったら言ってね。私、頑張ってお金を貯めるわ」

「働かなくていい」

強気に蛍に向き合っていると、背後から切れ味の強い一声がした。

振り返ると紫暮が両腕を組み、ムスッとした様子で壁に背を預けている。

「そう……ですよね。お給金をいただけるなんて甘えてました。えっと、そうしましたら内職はお許しいただけますか?」

「花純は俺の番だろう?」


あぁ、そうだった。

下仕えになる気満々で来ただけにまだ腑に落ちていないところがある。

むくれた紫暮の意を察してしまい、頬に熱が集中してしまう。

つまり紫暮は”番としての役目”を求めている。それは妻であり、女として紫暮と接するようにとの要求だ。

初っぱなから積極的な紫暮に、これからのことを想像して発狂したくなる煽りを食らってしまい、頬を押さえ込んで固く目を閉じた。