○蒼牙回想
約200年前、碧浪国内(帝国の属国になる前)、江戸時代末期のような街並み
白い着物姿のお腹の大きな妖鬼人の女性(銀髪に青い目)と対峙し、刀を向けていた蒼牙(小袖と袴姿)
蒼牙「早く逃げろ」
※言葉が通じないため、顎でしゃくりつつ
妖鬼人「どうぞ、私を殺してくださいな」
※堂々とした様子で怯えなどなく
蒼牙M(言葉が通じた?)
※言葉が通じないと思っていた蒼牙は驚き目を見開くが、すぐに表情を戻す
蒼牙「いいから逃げろ。今なら他の者に気づかれない」
※刀は向けたまま、淡々とした表情を変えずに
妖鬼人「ですが、そうすればあなた様が……」
※どこか悲し気な様子で顔を伏せる
蒼牙「妊婦は処刑できない。昔からの習わしだ。いいから早く行け!」
※刀はかまえたまま
妖鬼人「お情けをかけていただき、ありがとうございます」
妖鬼人「ただ私が逃げれば、あなた様が捕まり、処刑される未来が見えております」
※蒼牙を真っすぐ見て
蒼牙「おまえは、予言師か? だから言葉も?」
妖鬼人「そう呼ばれることもございます」
※にっこり微笑んで
妖鬼人「この御恩は忘れません。どうかあなた様に、幸せな未来が訪れますよう、祈っております」
胸の前で両手を組み、蒼牙に向かって祈りを捧げる妖鬼人
蒼牙の身体が光の粒子に包まれる
妖鬼人「これであなた様が処刑される未来から逃れるかと」
軽く頭を下げ、その場を去ろうとする妖鬼人
蒼牙「おい、ちょっと待て」
蒼牙「俺の名は、天晴蒼牙。予言師、おまえの名前を教えてくれ」
※慌てて呼び止める
妖鬼人は立ち止まり、もう一度蒼牙と向かい合う
妖鬼人「妃燈と申します。またどこかでご縁がありましたら」
もう一度頭を下げた妖鬼人は、風のようにその場から去っていった
○現在、紅谷家の執務室
夜になっており、執務室にはガスランプが灯る
執務席の上には山のように資料が積み上げられている
霧島「こんな人が死んだ部屋で、よく仕事ができますね」
開けっ放しの扉をコンとノックと同時に霧島が入室してくる
蒼牙「ものが揃っているからな」
蒼牙「それに片づけただろ?」
※昼間に龍一郎がいただろう場所を顎でしゃくる
血の痕が絨毯の上に滲んでいる
霧島は呆れたようにため息をつきながらも、空いているソファに座る
蒼牙「それで、おまえのほうは?」
霧島「治療はひととおり終わりましたが……」
霧島「何人かは薬物の治療が必要ですね」
蒼牙「薬物か……面倒だな……」
※机の上に肘をつき手を組んでうなだれる蒼牙
霧島「えぇ……とりあえず今日は、痛み止めと睡眠薬でおとなしくさせましたが」
霧島「それだって、一日、二日が限度です」
蒼牙「紅谷はいったい何をしていたんだ?」
霧島「さぁ?」
※軽く肩をすくめる
霧島「それは隊長が今、調べているのでは?」
※執務席の資料をざっと見る
蒼牙「何がどこに書いてあるのか」
蒼牙「それを調べるだけで夜が明けそうだ」
※軽く首を振っておどける
蒼牙「そういえば、あの娘の母親がどこかにいるらしい」
※資料に視線を落としたまま
蒼牙M(だが、死んだとも言っていたな)
霧島「父親は、紅谷の当主?」
※片眉をあげつつ
蒼牙「本人が言うにはな」
蒼牙「だが、払鬼人と妖鬼人の婚姻は認められていない」
蒼牙「まして子をなすなど……」
※手にしている資料がぐしゃりと音を立てる
月代「失礼します」
お盆にお茶を用意した月代が部屋に入ってくる
月代「あ、副隊長もご一緒でしたから」
※お盆の上にはお茶が一つだけで、気まずそうにそれを見る
霧島「私のことは気にしなくていい」
霧島「それよりも、隊長はまだまだ休めないようだからな」
※ほら見ろと言わんばかりに執務席の山のような資料に顔を向ける
月代「隊長、僕に手伝えることがあれば、遠慮なく言ってください」
※お茶をトンと執務席の上に置く
蒼牙「ああ、そのときがきたら頼む」
蒼牙「それよりも、あの娘の様子は?」
※蒼牙の息でお茶から昇る湯気が軌道を変える
月代「はい、怪我の手当もしましたし、湯浴みもすませたようです」
月代「今は、ゆっくり休まれているかと」
※元気よくはきはきと
蒼牙「そうか」
※顎を撫でながら、しばし考え込む
蒼牙「霧島、明日はあの娘をおまえにつける」
蒼牙「動けるようになった妖鬼人から、話を聞き出してほしい」
霧島「御意に」
※恭しく頭を下げる
蒼牙「月代は、俺と一緒に紅谷が何をやっていたのかを調べる」
※目の前の山盛りの書類と、本棚に並ぶ資料に視線を向ける
月代「はい、隊長のお役に立てるなら光栄です」
※きらきらとした眼差しを蒼牙に向ける
霧島「出たよ、月代の隊長崇拝……」
※呆れたような表情で
月代「崇拝ではありません」
月代「尊敬しているんです」
※堂々と胸を張り
蒼牙「おまえたちも今日はもう休め」
蒼牙「他の者にも交代で休むように伝えてくれ」
※ひらひらと手を振った後、湯呑に口をつける
霧島「休む前に一つだけ教えてください」
※霧島の眼鏡にガスランプの明かりが反射する
蒼牙「なんだ?」
※湯呑をトンと置く
霧島「応援はどちらに頼む予定ですか?」
蒼牙「あぁ……」
※腕を組んで椅子の背もたれに寄りかかる
蒼牙「状況が状況なだけに、やはり第三皇子が無難だと思っている」
あからさまに嫌そうな顔をする霧島
霧島「あの人が来れば、半妖の娘を知られるのでは?」
蒼牙「それは、邪気を抑えるように、あの娘には言うつもりだ」
※腕を組む
蒼牙「だが……半妖だと知られ、皇族に奪われるのだけは避けたい」
霧島「なるほど。では、私のほうでも何か策を考えておきます」
※眼鏡が光る
蒼牙「頼む」
霧島はさっと席を立つ。
霧島「では、私はこれで失礼します」
※頭を下げる
部屋を出ていく霧島の姿を見て、月代も慌てて頭を下げ、霧島の後を追う。
蒼牙「月代」
※部屋を出ていこうとする月代を呼び止める
月代「はい」
※ぴたっと足を止め、振り返る
蒼牙「悪いが、部屋を出るときに扉を閉めてくれ」
月代「承知しました」
そのまま部屋を出ていった月代が頭を下げて扉を閉めていく
静かな執務室に灯るガスランプ
机の上の山のような資料に目をやりつつ、お茶を飲んで一息つく蒼牙
蒼牙M(あのとき、あの妖鬼人が言ったことは事実となった)
蒼牙M(俺は一人も妖鬼人を討伐できなかったからと、王太子によって処刑されるところだった)
○蒼牙回想
約200年前、碧浪国の屋敷(江戸時代の大名屋敷のような造り)の大広間
上段には碧浪国王太子の蒼牙の兄が座っており、下段に蒼牙
蒼牙の両脇には、兄の部下がいる
兄「蒼牙、おまえは妖鬼人の首一つも持ってこれないのか?」
兄「恥ずかしいとは思わないのか?」
頭を下げたままの蒼牙
兄「もう、いい」
兄「使えない者はいらん」
兄「斬れ」
※手を振って部下に命じる
さっと動き出す部下たちだが、蒼牙は微動だにしない
そこに着物姿の男(呪術師)が慌てて入ってくる
呪術師「お待ちください、殿下」
※蒼牙の隣に膝をつき頭を下げる
兄「なんだ、騒々しい」
※舌打ちしつつ苦々しく
呪術師「この者、呪われております」
呪術師「呪った者を処刑すれば、呪い返しが発動します」
※頭を下げたまま
兄「呪い返しだと?」
呪術師「はい、どういった種類の呪いかわかりかねますが……」
呪術師「とにかく禍々しい気を感じます」
蒼牙から黒いもやが立ち上がる
兄は舌打ちをする
兄「おまえがそう言うなら、そうなのだろう」
兄「妖鬼人の首をとれないばかりか、呪われてくるとはな」
兄「本当に使えないやつだ」
兄「その者を牢に閉じ込めておけ」
○回想終わり、現在、紅谷邸の執務室
蒼牙M(あのあと、座敷牢に閉じ込められたが……)
蒼牙M(水も食料も与えられなかった)
※回想:座敷牢に閉じ込められている蒼牙
蒼牙M(兄は、俺を飢え死にさせるつもりだったようだが)
蒼牙M(俺は死ななかった)
※回想:水も食事もないのにぴんぴんしている蒼牙に驚く兄
蒼牙M(あのときは、不思議と腹も減らなかったし、喉も乾かなかった)
蒼牙M(それがあの妖鬼人にかけられた呪いのせいだとは思ってもいなかったが)
※回想:腹の大きな妖鬼人、妃燈の姿
蒼牙M(だが兄も、俺が不老不死になったとわかれば、今度は痛めつけてきた)
※回想:部下に指示して蒼牙を鞭打ちし、痛みに耐える蒼牙を見ては喜ぶ兄
蒼牙M(そんな兄も、老いには勝てなかったようだが)
※回想:棺に入れられる年老いた兄
蒼牙M(次の王は兄の子だったが)
蒼牙M(結局、兄の直系は途切れ、俺が王位に就いたのは50年前)
蒼牙M(そして妖鬼人と争うのに疲れ、帝国からの要望を受け入れてしまった)
※過去を思い出し、額に手の甲を押し当てる蒼牙
蒼牙M(なぜあの妖鬼人は、俺にこんな呪いをかけたのだろうか……)
※静かに目を閉じる蒼牙
○夜が明けた紅谷家の屋敷(客間)
目が覚めた妃燈は、布団の上でぼんやり座っている
障子戸の向こうから声が聞こえる
月代「おはようございます、妃燈さん」
月代「お食事をお持ちしました」
妃燈「は、はい。おはようございます」
※慌てて返事をする
妃燈の返事を聞いた月代が障子戸を開けて、部屋に入ってくる
小さな土鍋をのせたお盆を持つ月代の後ろに蒼牙の姿がある
妃燈「あ、おはようございます」
※蒼牙の姿を見つけると、もう一度挨拶を口にし、小さく頭を下げる
蒼牙「おはよう。よく眠れたか?」
妃燈の隣に座る蒼牙
月代は食事を妃燈に手渡し、蒼牙の後ろに控える
妃燈「ありがとうございます」
※食事を受け取る
まだ食べようとはしない妃燈
蒼牙「おまえは少しずつ食べる量を増やせ」
何を言われたのかと、きょとんとする妃燈
蒼牙「昨日も、ほんの数口でお腹がいっぱいだと言った」
蒼牙「おまえは食べる量が少ない」
蒼牙「せめて、その量を残さず食べられるようになれ」
※土鍋を指す蒼牙
妃燈「頑張ります」
蒼牙「それからもう一つ、おまえに言っておくべきことがある」
※腕を組む蒼牙
妃燈「は、はい」
※何を言われるのだろうと身構える妃燈
蒼牙「ここに、帝国の皇子が来る」
蒼牙「焔陽国も帝国の属国だからな」
うなずく妃燈
蒼牙「だが、おまえの存在を皇族の奴らに知られると面倒だ」
妃燈M(それは、わたしが中途半端な存在だから……?)
※ドキリとする妃燈
蒼牙「おまえの力を知られてしまえば、帝国に連れていかれる可能性もある」
※腕を組んだまま、力強い眼差しで妃燈を見る
妃燈は何も言えず黙っているが、膝の上に置いた土鍋がカタカタと音を立てる
蒼牙「そう、怯えるな」
蒼牙「俺たちだって、おまえを帝国にやりたいわけじゃない」
※微かに笑みを浮かべる
驚いた妃燈も、安心したように小さく笑みを浮かべる
蒼牙「そこで帝国が来る前に、おまえにいくつか頼みたいことがある」
妃燈「はい」
蒼牙「邪力を使うな」
蒼牙「角も見せるな」
蒼牙「半妖であることを隠せ」
妃燈「はい」
蒼牙「それから……」
蒼牙「これはおまえが帝国に連れていかれないようにする苦肉の策だ」
※どこか困ったような表情になる
蒼牙の後ろで控える月代はピクリともしない
蒼牙「俺と結婚してほしい」
何を言われたのかと、目を瞬く妃燈
約200年前、碧浪国内(帝国の属国になる前)、江戸時代末期のような街並み
白い着物姿のお腹の大きな妖鬼人の女性(銀髪に青い目)と対峙し、刀を向けていた蒼牙(小袖と袴姿)
蒼牙「早く逃げろ」
※言葉が通じないため、顎でしゃくりつつ
妖鬼人「どうぞ、私を殺してくださいな」
※堂々とした様子で怯えなどなく
蒼牙M(言葉が通じた?)
※言葉が通じないと思っていた蒼牙は驚き目を見開くが、すぐに表情を戻す
蒼牙「いいから逃げろ。今なら他の者に気づかれない」
※刀は向けたまま、淡々とした表情を変えずに
妖鬼人「ですが、そうすればあなた様が……」
※どこか悲し気な様子で顔を伏せる
蒼牙「妊婦は処刑できない。昔からの習わしだ。いいから早く行け!」
※刀はかまえたまま
妖鬼人「お情けをかけていただき、ありがとうございます」
妖鬼人「ただ私が逃げれば、あなた様が捕まり、処刑される未来が見えております」
※蒼牙を真っすぐ見て
蒼牙「おまえは、予言師か? だから言葉も?」
妖鬼人「そう呼ばれることもございます」
※にっこり微笑んで
妖鬼人「この御恩は忘れません。どうかあなた様に、幸せな未来が訪れますよう、祈っております」
胸の前で両手を組み、蒼牙に向かって祈りを捧げる妖鬼人
蒼牙の身体が光の粒子に包まれる
妖鬼人「これであなた様が処刑される未来から逃れるかと」
軽く頭を下げ、その場を去ろうとする妖鬼人
蒼牙「おい、ちょっと待て」
蒼牙「俺の名は、天晴蒼牙。予言師、おまえの名前を教えてくれ」
※慌てて呼び止める
妖鬼人は立ち止まり、もう一度蒼牙と向かい合う
妖鬼人「妃燈と申します。またどこかでご縁がありましたら」
もう一度頭を下げた妖鬼人は、風のようにその場から去っていった
○現在、紅谷家の執務室
夜になっており、執務室にはガスランプが灯る
執務席の上には山のように資料が積み上げられている
霧島「こんな人が死んだ部屋で、よく仕事ができますね」
開けっ放しの扉をコンとノックと同時に霧島が入室してくる
蒼牙「ものが揃っているからな」
蒼牙「それに片づけただろ?」
※昼間に龍一郎がいただろう場所を顎でしゃくる
血の痕が絨毯の上に滲んでいる
霧島は呆れたようにため息をつきながらも、空いているソファに座る
蒼牙「それで、おまえのほうは?」
霧島「治療はひととおり終わりましたが……」
霧島「何人かは薬物の治療が必要ですね」
蒼牙「薬物か……面倒だな……」
※机の上に肘をつき手を組んでうなだれる蒼牙
霧島「えぇ……とりあえず今日は、痛み止めと睡眠薬でおとなしくさせましたが」
霧島「それだって、一日、二日が限度です」
蒼牙「紅谷はいったい何をしていたんだ?」
霧島「さぁ?」
※軽く肩をすくめる
霧島「それは隊長が今、調べているのでは?」
※執務席の資料をざっと見る
蒼牙「何がどこに書いてあるのか」
蒼牙「それを調べるだけで夜が明けそうだ」
※軽く首を振っておどける
蒼牙「そういえば、あの娘の母親がどこかにいるらしい」
※資料に視線を落としたまま
蒼牙M(だが、死んだとも言っていたな)
霧島「父親は、紅谷の当主?」
※片眉をあげつつ
蒼牙「本人が言うにはな」
蒼牙「だが、払鬼人と妖鬼人の婚姻は認められていない」
蒼牙「まして子をなすなど……」
※手にしている資料がぐしゃりと音を立てる
月代「失礼します」
お盆にお茶を用意した月代が部屋に入ってくる
月代「あ、副隊長もご一緒でしたから」
※お盆の上にはお茶が一つだけで、気まずそうにそれを見る
霧島「私のことは気にしなくていい」
霧島「それよりも、隊長はまだまだ休めないようだからな」
※ほら見ろと言わんばかりに執務席の山のような資料に顔を向ける
月代「隊長、僕に手伝えることがあれば、遠慮なく言ってください」
※お茶をトンと執務席の上に置く
蒼牙「ああ、そのときがきたら頼む」
蒼牙「それよりも、あの娘の様子は?」
※蒼牙の息でお茶から昇る湯気が軌道を変える
月代「はい、怪我の手当もしましたし、湯浴みもすませたようです」
月代「今は、ゆっくり休まれているかと」
※元気よくはきはきと
蒼牙「そうか」
※顎を撫でながら、しばし考え込む
蒼牙「霧島、明日はあの娘をおまえにつける」
蒼牙「動けるようになった妖鬼人から、話を聞き出してほしい」
霧島「御意に」
※恭しく頭を下げる
蒼牙「月代は、俺と一緒に紅谷が何をやっていたのかを調べる」
※目の前の山盛りの書類と、本棚に並ぶ資料に視線を向ける
月代「はい、隊長のお役に立てるなら光栄です」
※きらきらとした眼差しを蒼牙に向ける
霧島「出たよ、月代の隊長崇拝……」
※呆れたような表情で
月代「崇拝ではありません」
月代「尊敬しているんです」
※堂々と胸を張り
蒼牙「おまえたちも今日はもう休め」
蒼牙「他の者にも交代で休むように伝えてくれ」
※ひらひらと手を振った後、湯呑に口をつける
霧島「休む前に一つだけ教えてください」
※霧島の眼鏡にガスランプの明かりが反射する
蒼牙「なんだ?」
※湯呑をトンと置く
霧島「応援はどちらに頼む予定ですか?」
蒼牙「あぁ……」
※腕を組んで椅子の背もたれに寄りかかる
蒼牙「状況が状況なだけに、やはり第三皇子が無難だと思っている」
あからさまに嫌そうな顔をする霧島
霧島「あの人が来れば、半妖の娘を知られるのでは?」
蒼牙「それは、邪気を抑えるように、あの娘には言うつもりだ」
※腕を組む
蒼牙「だが……半妖だと知られ、皇族に奪われるのだけは避けたい」
霧島「なるほど。では、私のほうでも何か策を考えておきます」
※眼鏡が光る
蒼牙「頼む」
霧島はさっと席を立つ。
霧島「では、私はこれで失礼します」
※頭を下げる
部屋を出ていく霧島の姿を見て、月代も慌てて頭を下げ、霧島の後を追う。
蒼牙「月代」
※部屋を出ていこうとする月代を呼び止める
月代「はい」
※ぴたっと足を止め、振り返る
蒼牙「悪いが、部屋を出るときに扉を閉めてくれ」
月代「承知しました」
そのまま部屋を出ていった月代が頭を下げて扉を閉めていく
静かな執務室に灯るガスランプ
机の上の山のような資料に目をやりつつ、お茶を飲んで一息つく蒼牙
蒼牙M(あのとき、あの妖鬼人が言ったことは事実となった)
蒼牙M(俺は一人も妖鬼人を討伐できなかったからと、王太子によって処刑されるところだった)
○蒼牙回想
約200年前、碧浪国の屋敷(江戸時代の大名屋敷のような造り)の大広間
上段には碧浪国王太子の蒼牙の兄が座っており、下段に蒼牙
蒼牙の両脇には、兄の部下がいる
兄「蒼牙、おまえは妖鬼人の首一つも持ってこれないのか?」
兄「恥ずかしいとは思わないのか?」
頭を下げたままの蒼牙
兄「もう、いい」
兄「使えない者はいらん」
兄「斬れ」
※手を振って部下に命じる
さっと動き出す部下たちだが、蒼牙は微動だにしない
そこに着物姿の男(呪術師)が慌てて入ってくる
呪術師「お待ちください、殿下」
※蒼牙の隣に膝をつき頭を下げる
兄「なんだ、騒々しい」
※舌打ちしつつ苦々しく
呪術師「この者、呪われております」
呪術師「呪った者を処刑すれば、呪い返しが発動します」
※頭を下げたまま
兄「呪い返しだと?」
呪術師「はい、どういった種類の呪いかわかりかねますが……」
呪術師「とにかく禍々しい気を感じます」
蒼牙から黒いもやが立ち上がる
兄は舌打ちをする
兄「おまえがそう言うなら、そうなのだろう」
兄「妖鬼人の首をとれないばかりか、呪われてくるとはな」
兄「本当に使えないやつだ」
兄「その者を牢に閉じ込めておけ」
○回想終わり、現在、紅谷邸の執務室
蒼牙M(あのあと、座敷牢に閉じ込められたが……)
蒼牙M(水も食料も与えられなかった)
※回想:座敷牢に閉じ込められている蒼牙
蒼牙M(兄は、俺を飢え死にさせるつもりだったようだが)
蒼牙M(俺は死ななかった)
※回想:水も食事もないのにぴんぴんしている蒼牙に驚く兄
蒼牙M(あのときは、不思議と腹も減らなかったし、喉も乾かなかった)
蒼牙M(それがあの妖鬼人にかけられた呪いのせいだとは思ってもいなかったが)
※回想:腹の大きな妖鬼人、妃燈の姿
蒼牙M(だが兄も、俺が不老不死になったとわかれば、今度は痛めつけてきた)
※回想:部下に指示して蒼牙を鞭打ちし、痛みに耐える蒼牙を見ては喜ぶ兄
蒼牙M(そんな兄も、老いには勝てなかったようだが)
※回想:棺に入れられる年老いた兄
蒼牙M(次の王は兄の子だったが)
蒼牙M(結局、兄の直系は途切れ、俺が王位に就いたのは50年前)
蒼牙M(そして妖鬼人と争うのに疲れ、帝国からの要望を受け入れてしまった)
※過去を思い出し、額に手の甲を押し当てる蒼牙
蒼牙M(なぜあの妖鬼人は、俺にこんな呪いをかけたのだろうか……)
※静かに目を閉じる蒼牙
○夜が明けた紅谷家の屋敷(客間)
目が覚めた妃燈は、布団の上でぼんやり座っている
障子戸の向こうから声が聞こえる
月代「おはようございます、妃燈さん」
月代「お食事をお持ちしました」
妃燈「は、はい。おはようございます」
※慌てて返事をする
妃燈の返事を聞いた月代が障子戸を開けて、部屋に入ってくる
小さな土鍋をのせたお盆を持つ月代の後ろに蒼牙の姿がある
妃燈「あ、おはようございます」
※蒼牙の姿を見つけると、もう一度挨拶を口にし、小さく頭を下げる
蒼牙「おはよう。よく眠れたか?」
妃燈の隣に座る蒼牙
月代は食事を妃燈に手渡し、蒼牙の後ろに控える
妃燈「ありがとうございます」
※食事を受け取る
まだ食べようとはしない妃燈
蒼牙「おまえは少しずつ食べる量を増やせ」
何を言われたのかと、きょとんとする妃燈
蒼牙「昨日も、ほんの数口でお腹がいっぱいだと言った」
蒼牙「おまえは食べる量が少ない」
蒼牙「せめて、その量を残さず食べられるようになれ」
※土鍋を指す蒼牙
妃燈「頑張ります」
蒼牙「それからもう一つ、おまえに言っておくべきことがある」
※腕を組む蒼牙
妃燈「は、はい」
※何を言われるのだろうと身構える妃燈
蒼牙「ここに、帝国の皇子が来る」
蒼牙「焔陽国も帝国の属国だからな」
うなずく妃燈
蒼牙「だが、おまえの存在を皇族の奴らに知られると面倒だ」
妃燈M(それは、わたしが中途半端な存在だから……?)
※ドキリとする妃燈
蒼牙「おまえの力を知られてしまえば、帝国に連れていかれる可能性もある」
※腕を組んだまま、力強い眼差しで妃燈を見る
妃燈は何も言えず黙っているが、膝の上に置いた土鍋がカタカタと音を立てる
蒼牙「そう、怯えるな」
蒼牙「俺たちだって、おまえを帝国にやりたいわけじゃない」
※微かに笑みを浮かべる
驚いた妃燈も、安心したように小さく笑みを浮かべる
蒼牙「そこで帝国が来る前に、おまえにいくつか頼みたいことがある」
妃燈「はい」
蒼牙「邪力を使うな」
蒼牙「角も見せるな」
蒼牙「半妖であることを隠せ」
妃燈「はい」
蒼牙「それから……」
蒼牙「これはおまえが帝国に連れていかれないようにする苦肉の策だ」
※どこか困ったような表情になる
蒼牙の後ろで控える月代はピクリともしない
蒼牙「俺と結婚してほしい」
何を言われたのかと、目を瞬く妃燈



