○焔陽国、紅谷邸
シャツにズボン姿の蒼牙は、肩に軍服をひっかけるように手で持ち、妃燈がいる部屋から出ると、そこには軍服姿の月代(蒼牙の副官・補佐役、黒髪長髪を一つに結んでいる)がいる
T:碧浪国軍副官、月代咲夜
月代「隊長、邪力を感じましたが、ご無事ですか?」
※眉間に力を込め、蒼牙の顔を下からのぞき込むように(月代のほうが背が低いため)
蒼牙「問題ない。アレは半妖だ。だが力の制御ができない」
※気難しい表情で淡々と答える
月代「半妖ですか? あの娘が?」
※身を乗り出し、目を見開き蒼牙に詰め寄る
蒼牙「近い。そう噛みつくな」
※両手を身体の前に出して、月代を制する
月代「申し訳ありません。半妖と聞いても信じられず。本当に存在するんですね……」
※腕を組み、視線を宙に向け、疑わし気に
蒼牙「余計なところには言いふらすなよ。紅谷も今までよく隠していたものだな」
※宙を睨みつけるようにして威圧しつつ
月代「わかってます。でもどこからどう見ても、払鬼人と変わらないじゃないですか」
※蒼牙の言葉に頷きつつ
蒼牙「普段は払鬼人と変わらないが、力が暴走すれば妖鬼人としての姿を現す」
※うっすら角をはやした妃燈の姿を想像
月代「彼女……虐待のあとがありましたね」
※顔をしかめる
服から見えた肩や首筋に鞭で打たれたような跡がある妃燈を思い出す月代
蒼牙「そもそも地下牢に枷をして閉じ込められていたんだ」
※憎しみを込めて歯をくいしばるような表情
月代「半妖だから?」
※きょとんとして首を傾げる
蒼牙「さあな。だが、彼女は貴重な存在だ。俺たちだけでは、妖鬼人と会話ができない」
蒼牙「だが、半妖ならどちらの言葉も理解できるはずだ」
蒼牙M(払鬼人と妖鬼人では、言葉が通じない)
蒼牙M(争いが長引いたのも、その言葉の壁のせいだ)
※回想:争っていた時代
蒼牙M(それを先代の皇帝が妖鬼人の言葉で和解を持ち掛けたおかげで、今は和平が保たれているように見えるが……)
※回想:和解する払鬼人の皇帝と妖鬼人
蒼牙M(一部の払鬼人が妖鬼人を虐げているのも事実)
蒼牙M(その筆頭が焔陽国の紅谷家)
※回想:紅谷龍一郎の顔が脳内に浮かんでくる
月代と並んで歩き、妖鬼人を保護している離れへと向かう蒼牙
離れは横に長く、真っ白い外観の二階建ての洋館
○紅谷邸、離れの屋敷
蒼牙「ご苦労」
※離れの入り口に立っている部下にねぎらいの言葉をかける
部下は敬礼で返す
建物内の仲に入ると、「あ~」「う~」と不気味な声が響いている
さらに忙しなく館内の廊下をいったりきたりする軍服姿の軍人(男女ともに)、言葉が通じないため身振り手振りで妖鬼人の治療にあたっている
そこに碧浪隊の副隊長を務める霧島玄馬(黒髪短髪、銀ぶち眼鏡)の姿を見つけた蒼牙
T:碧浪国軍副隊長、霧島玄馬
蒼牙「霧島!」
※声を張り上げて
霧島「隊長、そちらの用はお済みで?」
※めがねをくいっと中指で押し上げながら
蒼牙「ああ、話がある」
※親指を立てて、二階(執務室)を指す
霧島「私も報告があります」
視線を交わし、意思疎通する二人
蒼牙「月代。状況確認を頼む。俺たちは上にいる」
月代「はい。承知しました!」
ビシッと敬礼する月代は、状況把握のために館内の奥へと駆けていく
その背を見送ってから、蒼牙と霧島は並んで二階に上がる
いつまでも聞こえてくる悲鳴に、蒼牙も「ひどいな」と顔をしかめる
○紅谷邸、離れの屋敷、執務室
テーブルとソファが置いてあるだけのシンプルな部屋(離れであるため、客人対応の部屋)
蒼牙「座れ」
※顎でしゃくって、霧島に向かい側に座るように言う
霧島「失礼します」
霧島が座ったのを見届けてから
蒼牙「そちらはどうだ?」
霧島「こちらは怪我人の治療を重点的に行っておりますが……」
※首を横に振る
霧島「とにかく、言葉が通じないので治療だけで精一杯です」
※ため息とともに肩をすくめる
蒼牙「妖鬼人の言葉がわかるのは……皇族とあの娘か」
霧島「あの娘? 牢に繋がれていた?」
※ぴくりとこめかみをひくつかせる
蒼牙「ああ、あれはやはり半妖だった」
※霧島の顔を見ずに、視線を下に向けたまま
霧島も眉間に力を込めたまま、何も言わない
蒼牙「まずは、彼らの体力回復に専念してくれ」
蒼牙「紅谷が何をしていたか、話を聞き出す必要があるからな」
※膝の上で肘をつき、顔の前で手を組んで
蒼牙M(報告がてら、第三皇子の協力を頼むべきか)
蒼牙M(だが、皇族にあの娘の存在を知られるのは厄介だな)
蒼牙「今はまだ、半妖の件は黙っておけ。あれは利用価値がある。他に奪われると面倒だ」
黙ってうなずく霧島
霧島「それから、この屋敷にいた紅谷に関係する払鬼人は、地下牢に捕らえています」
蒼牙「全員か?」
霧島「はい。使用人なども、一人残らず」
※眼鏡を光らせ、不気味に笑う
蒼牙「仕方ない、応援を頼むか……」
※人手が足りないから本当に仕方なくという、イヤイヤ感
※額に手を当てうなだれる
○紅谷邸、本邸、和室(客室)
ぼんやり覚醒する妃燈
いつもの屋根裏下手とは異なる竿縁天井が視界に入り、はっとして身体を起こす
布団は下腹部までかけてある状態
妃燈M(わたしの名前は妃燈)
※思い出して嬉しくなり、ニヤける
妃燈M(でもあの人は、誰?)
妃燈M(不老不死って言っていたけれど……)
※蒼牙の顔を思い出す
妃燈M(あの人の名前は?)
※唇をへの字にして考え込む
すると「くくくく」と低い笑い声が聞こえてきて、そちらに顔を向ける妃燈
蒼牙「目が覚めたのか?」
先ほどと同じ付書院に座っている蒼牙
蒼牙「一人百面相か?」
指摘され、急に恥ずかしくなった妃燈はぽっと顔を赤くする
蒼牙「ゆっくり休めたか?」
妃燈「はい。ありがとうございます。あの……」
※言いかけたが、父親に怒鳴られるような気がして身をすくめる
蒼牙もそれに気づき、ゆっくり妃燈に近づき、その隣に胡坐をかいて座る
蒼牙「言いたいことがあるならはっきり言え」
妃燈は驚いて目を見開くものの、蒼牙をじっと見つめる
妃燈「お名前を……あなたの名前……」
蒼牙「名前? 俺のか?」
※きょとんとした表情
首をこくこくと縦にふる妃燈
蒼牙「名乗っていなかったか? 俺は天晴蒼牙」
妃燈M(天晴家は碧浪国の君主……この人が?)
※観察するようにじっくり見る
蒼牙はそれを意にも介さず、淡々と言葉を続ける
蒼牙「早速、おまえに働いてもらいたい」
働くと言われ、急に不安になって顔を曇らせる妃燈
蒼牙「働かざる者食うべからず、だ。俺の下が嫌なら、他の者を紹介するが?」
妃燈「いえ。あなたの元で働かせてください」
※見捨てられたくない一心で首を横に振る妃燈
蒼牙「動けるようなら、ついてこい」
妃燈「はい」
がばりと布団をはねのけて起き上がるが、ふらりとよろめく
そこを蒼牙が受け止める
蒼牙「まだ、体力が戻っていないようだな」
妃燈「いえ、動けます」
※見捨てられたくない思いで、必死にすがりつくように
蒼牙「これ以上、病人が増えると面倒だ。今日はここで休め。動くのは明日からでいい」
妃燈「でも……」
※捨てられるのではないかと、不安で顔を曇らせる
蒼牙「そうだな。この場でこの屋敷について教えてもらおう。それがおまえの今日の仕事だ」
蒼牙「紅谷の者はしゃべろうとしないし、他は言葉が通じない」
言葉が通じないと言われ、はっとする妃燈
そこで妃燈のお腹がぐぅと鳴る
蒼牙「なんだ。やっぱり、腹が減ってるんじゃないか」
※笑いを押し殺すようにして
蒼牙「何か、食べ物をもってこよう」
蒼牙「軽いもののほうがいいな」
※妃燈の姿をさっと見て
蒼牙「少し待っていろ」
部屋を出ていく蒼牙を見つめる妃燈
和室に一人残されて、小さく息を吐く
妃燈N「玄煌帝国は、緑嶺国、旭耀国、碧浪国、焔陽国の四つの国を属国とし、妖鬼人と戦っていた」
※帝国側(四つの国)と妖鬼人たちが暮らしていた位置関係を示す地図
妃燈N「数十年前に帝国側から和解をもちかけられた妖鬼人がそれを受けいれ、争いに終止符を打った」
※争いの様子
妃燈N「結果、妖鬼人が住んでいた場所は帝国のものとなり、妖鬼人たちは各地に散らばった」
※争いに負け、とぼとぼと各地に散らばる妖鬼人
妃燈N「そして払鬼人は妖鬼人を虐げている。少なくとも、焔陽国ではそうだった」
※龍一郎たちに虐げられる妖鬼人
妃燈M(でも、あの人は碧浪国の人……)
物音が聞こえると、蒼牙と見慣れぬ小柄な男性(月代)が部屋に入ってきた。
月代は両手でお盆を持ち、その上には小さな土鍋がある
妃燈の隣に正座した月代は、土鍋を畳の上に置く
月代「はじめまして。僕は天晴隊長の副官をつとめる、月代咲夜といいます」
※元気よく礼儀正しく頭を下げる
妃燈「は、はじめまして」
※布団の上で長座位のまま、頭を下げる
蒼牙「こういうときは名前を名乗れ」
※立って腕を組んだまま
妃燈M(名前……さっき、もらった名前……)
妃燈「妃燈です」
月代「妃燈さん。おかゆを用意しました」
※にっこり笑って、お盆を妃燈に手渡す
お盆を受け取った妃燈は、太ももの上にそれを置く
月代「熱いので気を付けてくださいね」
土鍋の蓋を外す妃燈
蒼牙「まずは食え。話はそれからだ」
月代の隣にあぐらをかいて座る蒼牙
ふぅふぅと息を吹きかけ、おかゆを食べる妃燈だが、三口ほど食べたところで匙が止まる
蒼牙「どうした? 口に合わないか?」
※顔を曇らせて
妃燈「お腹がいっぱいです」
※苦しそうにお腹をさすって
顔を見合わせる蒼牙と月代、頷き合う
月代、妃燈からお盆ごと土鍋を受け取り、蓋をして脇に置く
蒼牙「そうか。腹いっぱいになったら、話もできるな?」
※妃燈を安心させるように微かに笑みを浮かべる(蒼牙本人は気づいていない)
蒼牙の笑顔に気づいた月代は「珍しい」と思うが、顔には出さない
妃燈「はい」
妃燈M(この人は紅谷について教えてほしいと言っていた……)
※緊張で身を硬くし、視線を布団の上に出ている両手に向けつつ、拳を小さく握りしめる
蒼牙「早速だが、この屋敷に妖鬼人がいるのはなぜだ?」
※腕を組み、睨むような表情
彼を見ずに息を呑む妃燈
妃燈「それは、連れてきたからです」
※蒼牙を見ない、視線は自分の手元に
蒼牙「連れてきた? どうやって?」
※腕を組んだまま
妃燈「わたしが、声をかけて……」
※伸びていた背筋が丸まってくる
蒼牙「誰かに命じられたのか?」
背筋を丸めたままうなずく妃燈
蒼牙「状況は理解した。その妖鬼人には怪我人が多い」
蒼牙「治療を行っているが、なにぶん、言葉が通じない」
蒼牙「おまえは、妖鬼人の言葉も理解できるだろう?」
うなずく妃燈
蒼牙「妖鬼人が何を言っているのか俺たちに教えてくれ。それがおまえに頼みたい仕事だ」
※妃燈を射抜くような視線で
シャツにズボン姿の蒼牙は、肩に軍服をひっかけるように手で持ち、妃燈がいる部屋から出ると、そこには軍服姿の月代(蒼牙の副官・補佐役、黒髪長髪を一つに結んでいる)がいる
T:碧浪国軍副官、月代咲夜
月代「隊長、邪力を感じましたが、ご無事ですか?」
※眉間に力を込め、蒼牙の顔を下からのぞき込むように(月代のほうが背が低いため)
蒼牙「問題ない。アレは半妖だ。だが力の制御ができない」
※気難しい表情で淡々と答える
月代「半妖ですか? あの娘が?」
※身を乗り出し、目を見開き蒼牙に詰め寄る
蒼牙「近い。そう噛みつくな」
※両手を身体の前に出して、月代を制する
月代「申し訳ありません。半妖と聞いても信じられず。本当に存在するんですね……」
※腕を組み、視線を宙に向け、疑わし気に
蒼牙「余計なところには言いふらすなよ。紅谷も今までよく隠していたものだな」
※宙を睨みつけるようにして威圧しつつ
月代「わかってます。でもどこからどう見ても、払鬼人と変わらないじゃないですか」
※蒼牙の言葉に頷きつつ
蒼牙「普段は払鬼人と変わらないが、力が暴走すれば妖鬼人としての姿を現す」
※うっすら角をはやした妃燈の姿を想像
月代「彼女……虐待のあとがありましたね」
※顔をしかめる
服から見えた肩や首筋に鞭で打たれたような跡がある妃燈を思い出す月代
蒼牙「そもそも地下牢に枷をして閉じ込められていたんだ」
※憎しみを込めて歯をくいしばるような表情
月代「半妖だから?」
※きょとんとして首を傾げる
蒼牙「さあな。だが、彼女は貴重な存在だ。俺たちだけでは、妖鬼人と会話ができない」
蒼牙「だが、半妖ならどちらの言葉も理解できるはずだ」
蒼牙M(払鬼人と妖鬼人では、言葉が通じない)
蒼牙M(争いが長引いたのも、その言葉の壁のせいだ)
※回想:争っていた時代
蒼牙M(それを先代の皇帝が妖鬼人の言葉で和解を持ち掛けたおかげで、今は和平が保たれているように見えるが……)
※回想:和解する払鬼人の皇帝と妖鬼人
蒼牙M(一部の払鬼人が妖鬼人を虐げているのも事実)
蒼牙M(その筆頭が焔陽国の紅谷家)
※回想:紅谷龍一郎の顔が脳内に浮かんでくる
月代と並んで歩き、妖鬼人を保護している離れへと向かう蒼牙
離れは横に長く、真っ白い外観の二階建ての洋館
○紅谷邸、離れの屋敷
蒼牙「ご苦労」
※離れの入り口に立っている部下にねぎらいの言葉をかける
部下は敬礼で返す
建物内の仲に入ると、「あ~」「う~」と不気味な声が響いている
さらに忙しなく館内の廊下をいったりきたりする軍服姿の軍人(男女ともに)、言葉が通じないため身振り手振りで妖鬼人の治療にあたっている
そこに碧浪隊の副隊長を務める霧島玄馬(黒髪短髪、銀ぶち眼鏡)の姿を見つけた蒼牙
T:碧浪国軍副隊長、霧島玄馬
蒼牙「霧島!」
※声を張り上げて
霧島「隊長、そちらの用はお済みで?」
※めがねをくいっと中指で押し上げながら
蒼牙「ああ、話がある」
※親指を立てて、二階(執務室)を指す
霧島「私も報告があります」
視線を交わし、意思疎通する二人
蒼牙「月代。状況確認を頼む。俺たちは上にいる」
月代「はい。承知しました!」
ビシッと敬礼する月代は、状況把握のために館内の奥へと駆けていく
その背を見送ってから、蒼牙と霧島は並んで二階に上がる
いつまでも聞こえてくる悲鳴に、蒼牙も「ひどいな」と顔をしかめる
○紅谷邸、離れの屋敷、執務室
テーブルとソファが置いてあるだけのシンプルな部屋(離れであるため、客人対応の部屋)
蒼牙「座れ」
※顎でしゃくって、霧島に向かい側に座るように言う
霧島「失礼します」
霧島が座ったのを見届けてから
蒼牙「そちらはどうだ?」
霧島「こちらは怪我人の治療を重点的に行っておりますが……」
※首を横に振る
霧島「とにかく、言葉が通じないので治療だけで精一杯です」
※ため息とともに肩をすくめる
蒼牙「妖鬼人の言葉がわかるのは……皇族とあの娘か」
霧島「あの娘? 牢に繋がれていた?」
※ぴくりとこめかみをひくつかせる
蒼牙「ああ、あれはやはり半妖だった」
※霧島の顔を見ずに、視線を下に向けたまま
霧島も眉間に力を込めたまま、何も言わない
蒼牙「まずは、彼らの体力回復に専念してくれ」
蒼牙「紅谷が何をしていたか、話を聞き出す必要があるからな」
※膝の上で肘をつき、顔の前で手を組んで
蒼牙M(報告がてら、第三皇子の協力を頼むべきか)
蒼牙M(だが、皇族にあの娘の存在を知られるのは厄介だな)
蒼牙「今はまだ、半妖の件は黙っておけ。あれは利用価値がある。他に奪われると面倒だ」
黙ってうなずく霧島
霧島「それから、この屋敷にいた紅谷に関係する払鬼人は、地下牢に捕らえています」
蒼牙「全員か?」
霧島「はい。使用人なども、一人残らず」
※眼鏡を光らせ、不気味に笑う
蒼牙「仕方ない、応援を頼むか……」
※人手が足りないから本当に仕方なくという、イヤイヤ感
※額に手を当てうなだれる
○紅谷邸、本邸、和室(客室)
ぼんやり覚醒する妃燈
いつもの屋根裏下手とは異なる竿縁天井が視界に入り、はっとして身体を起こす
布団は下腹部までかけてある状態
妃燈M(わたしの名前は妃燈)
※思い出して嬉しくなり、ニヤける
妃燈M(でもあの人は、誰?)
妃燈M(不老不死って言っていたけれど……)
※蒼牙の顔を思い出す
妃燈M(あの人の名前は?)
※唇をへの字にして考え込む
すると「くくくく」と低い笑い声が聞こえてきて、そちらに顔を向ける妃燈
蒼牙「目が覚めたのか?」
先ほどと同じ付書院に座っている蒼牙
蒼牙「一人百面相か?」
指摘され、急に恥ずかしくなった妃燈はぽっと顔を赤くする
蒼牙「ゆっくり休めたか?」
妃燈「はい。ありがとうございます。あの……」
※言いかけたが、父親に怒鳴られるような気がして身をすくめる
蒼牙もそれに気づき、ゆっくり妃燈に近づき、その隣に胡坐をかいて座る
蒼牙「言いたいことがあるならはっきり言え」
妃燈は驚いて目を見開くものの、蒼牙をじっと見つめる
妃燈「お名前を……あなたの名前……」
蒼牙「名前? 俺のか?」
※きょとんとした表情
首をこくこくと縦にふる妃燈
蒼牙「名乗っていなかったか? 俺は天晴蒼牙」
妃燈M(天晴家は碧浪国の君主……この人が?)
※観察するようにじっくり見る
蒼牙はそれを意にも介さず、淡々と言葉を続ける
蒼牙「早速、おまえに働いてもらいたい」
働くと言われ、急に不安になって顔を曇らせる妃燈
蒼牙「働かざる者食うべからず、だ。俺の下が嫌なら、他の者を紹介するが?」
妃燈「いえ。あなたの元で働かせてください」
※見捨てられたくない一心で首を横に振る妃燈
蒼牙「動けるようなら、ついてこい」
妃燈「はい」
がばりと布団をはねのけて起き上がるが、ふらりとよろめく
そこを蒼牙が受け止める
蒼牙「まだ、体力が戻っていないようだな」
妃燈「いえ、動けます」
※見捨てられたくない思いで、必死にすがりつくように
蒼牙「これ以上、病人が増えると面倒だ。今日はここで休め。動くのは明日からでいい」
妃燈「でも……」
※捨てられるのではないかと、不安で顔を曇らせる
蒼牙「そうだな。この場でこの屋敷について教えてもらおう。それがおまえの今日の仕事だ」
蒼牙「紅谷の者はしゃべろうとしないし、他は言葉が通じない」
言葉が通じないと言われ、はっとする妃燈
そこで妃燈のお腹がぐぅと鳴る
蒼牙「なんだ。やっぱり、腹が減ってるんじゃないか」
※笑いを押し殺すようにして
蒼牙「何か、食べ物をもってこよう」
蒼牙「軽いもののほうがいいな」
※妃燈の姿をさっと見て
蒼牙「少し待っていろ」
部屋を出ていく蒼牙を見つめる妃燈
和室に一人残されて、小さく息を吐く
妃燈N「玄煌帝国は、緑嶺国、旭耀国、碧浪国、焔陽国の四つの国を属国とし、妖鬼人と戦っていた」
※帝国側(四つの国)と妖鬼人たちが暮らしていた位置関係を示す地図
妃燈N「数十年前に帝国側から和解をもちかけられた妖鬼人がそれを受けいれ、争いに終止符を打った」
※争いの様子
妃燈N「結果、妖鬼人が住んでいた場所は帝国のものとなり、妖鬼人たちは各地に散らばった」
※争いに負け、とぼとぼと各地に散らばる妖鬼人
妃燈N「そして払鬼人は妖鬼人を虐げている。少なくとも、焔陽国ではそうだった」
※龍一郎たちに虐げられる妖鬼人
妃燈M(でも、あの人は碧浪国の人……)
物音が聞こえると、蒼牙と見慣れぬ小柄な男性(月代)が部屋に入ってきた。
月代は両手でお盆を持ち、その上には小さな土鍋がある
妃燈の隣に正座した月代は、土鍋を畳の上に置く
月代「はじめまして。僕は天晴隊長の副官をつとめる、月代咲夜といいます」
※元気よく礼儀正しく頭を下げる
妃燈「は、はじめまして」
※布団の上で長座位のまま、頭を下げる
蒼牙「こういうときは名前を名乗れ」
※立って腕を組んだまま
妃燈M(名前……さっき、もらった名前……)
妃燈「妃燈です」
月代「妃燈さん。おかゆを用意しました」
※にっこり笑って、お盆を妃燈に手渡す
お盆を受け取った妃燈は、太ももの上にそれを置く
月代「熱いので気を付けてくださいね」
土鍋の蓋を外す妃燈
蒼牙「まずは食え。話はそれからだ」
月代の隣にあぐらをかいて座る蒼牙
ふぅふぅと息を吹きかけ、おかゆを食べる妃燈だが、三口ほど食べたところで匙が止まる
蒼牙「どうした? 口に合わないか?」
※顔を曇らせて
妃燈「お腹がいっぱいです」
※苦しそうにお腹をさすって
顔を見合わせる蒼牙と月代、頷き合う
月代、妃燈からお盆ごと土鍋を受け取り、蓋をして脇に置く
蒼牙「そうか。腹いっぱいになったら、話もできるな?」
※妃燈を安心させるように微かに笑みを浮かべる(蒼牙本人は気づいていない)
蒼牙の笑顔に気づいた月代は「珍しい」と思うが、顔には出さない
妃燈「はい」
妃燈M(この人は紅谷について教えてほしいと言っていた……)
※緊張で身を硬くし、視線を布団の上に出ている両手に向けつつ、拳を小さく握りしめる
蒼牙「早速だが、この屋敷に妖鬼人がいるのはなぜだ?」
※腕を組み、睨むような表情
彼を見ずに息を呑む妃燈
妃燈「それは、連れてきたからです」
※蒼牙を見ない、視線は自分の手元に
蒼牙「連れてきた? どうやって?」
※腕を組んだまま
妃燈「わたしが、声をかけて……」
※伸びていた背筋が丸まってくる
蒼牙「誰かに命じられたのか?」
背筋を丸めたままうなずく妃燈
蒼牙「状況は理解した。その妖鬼人には怪我人が多い」
蒼牙「治療を行っているが、なにぶん、言葉が通じない」
蒼牙「おまえは、妖鬼人の言葉も理解できるだろう?」
うなずく妃燈
蒼牙「妖鬼人が何を言っているのか俺たちに教えてくれ。それがおまえに頼みたい仕事だ」
※妃燈を射抜くような視線で



