○紅谷家、屋根裏部屋
妃燈M(母さまを助けなきゃ)
屋根裏部屋を飛び出し、龍一郎がいる執務室へと向かう
ノックもせずに乱暴に扉を開ける
妃燈「父さま! 母さまが!」
執務席に座る龍一郎に食って掛かろうとする妃燈
龍一郎「取り押さえろ」
※近くに控えている部下に命じる
龍一郎の部下二人によって、身体を押さえつけられる妃燈
そこに龍一郎がゆっくり近づいてくる
龍一郎「おまえも16歳になった。そろそろ子も産める年だろう?」
※獲物を狙うような視線、妃燈の顎に手を添え上を向かせる
龍一郎「もう、あの女は子を産めない」
※妃燈を上から見下ろす
妃燈M(あの女って……母さま?)
※龍一郎を睨みつける
龍一郎「おまえを産んでからも、何年も子種を注いできたというのに」
龍一郎「結局、おまえ以外は実にならなかった」
※舌なめずりをする
龍一郎「半妖からどのような子が生まれるのか……楽しみだな」
危険を感じ、龍一郎から顔を逸らし、身をよじって逃げようとする妃燈
宙一郎は手を上げ、暴れる妃燈の頬をぴしゃっと叩く
龍一郎「邪力にまみれたおまえたちが、不自由なく暮らせているのは誰のおかげだ?」
頬を腫らし、涙をためる妃燈は、唇を噛みしめ龍一郎を睨みつける
妃燈の身体から邪力(身体からもやが経ち始める)が、あふれそうになる
龍一郎「ほぅ?」
※馬鹿にしたような笑みを浮かべる
龍一郎「力を使うか? 私に逆らうのか? 母親がどうなってもいいのか?」
妃燈の身体から邪力(もや)が消え始める
ふぅふぅと荒く息を吐く妃燈
龍一郎「これを地下に繋いでおけ」
「離せ」「触るな」とわめきながら、龍一郎の部下によって引きずられるようにして地下牢へと連れていかれる妃燈
○地下牢
牢に入れられ、さらに足に枷を嵌められる妃燈
部下1「おとなしくしておけ。逃げられると思うなよ」
鉄格子越しに地下から出ていく部下たちをぼんやり見ている妃燈
彼らがいなくなると、周囲は静かで薄暗い
妃燈M(母さま……)
※部屋に残してきた母親を思う
○地下牢に入れられて数日後
ピシっと鞭が打ち付けられる音が響く
龍一郎が妃燈の背を鞭で叩く
龍一郎「黙って、言うことを聞けばいいものを……」
※鞭を振り上げる
龍一郎に反抗的な視線を向ける妃燈
龍一郎「母親がどうなってもいいのか!」
妃燈「母さまをどこにやった!」
妃燈「母さまの力を感じない」
龍一郎「黙れ」
ぴしっと鞭で妃燈を打つと、その場に妃燈は倒れて気を失う
妃燈M(母さま……どこに行ったの?)
※目を閉じる妃燈、暗転
○焔陽国、紅谷家の屋敷(客間)、現在に戻る
竿縁天井の和室にふかふかの布団が敷いてあり、そこで横になって眠っている妃燈
部屋の付書院に腰掛け、後ろの障子から明かりを取り込むような形で書物を読んでいる蒼牙
妃燈が目覚めた気配を察し、その場から彼女に視線を向ける
蒼牙「目が覚めたか」
※読んでいた書物を手にしたまま
蒼牙M(どうやら、落ち着いているみたいだな。邪力の乱れはない)
声をかけられ、身体を起こすと蒼牙を見てくる浴衣姿の妃燈
妃燈「ここは……?」
※きょろきょろと室内を確認する
蒼牙「残念ながら、紅谷家の屋敷だな。俺たちが占拠した」
妃燈「母さまは?」
蒼牙M(母親がいたのか?)
※手にしていた書物は付書院の上に置いて、顔をしかめる
蒼牙M(俺たちが突入したときは、ひどいありさまだった)
※回想:紅谷家の屋敷内に広がる怒号と悲鳴
蒼牙M(多くの妖鬼人が捕らえられていた)
蒼牙M(非人道的な扱いを受け、売られた者もいるのだろう)
※回想:座敷牢に閉じ込められていた妖鬼人たち
蒼牙「屋敷に捕らえられた妖鬼人は、保護している」
立ち上がり、ゆっくり妃燈に近づくと、妃燈の隣にあぐらをかいて座る
蒼牙「おまえは、紅谷の娘か?」
※妃燈の目を射抜くように見つめるが、妃燈は下を向いたまま何も言わない
蒼牙「名前は?」
顔を上げる妃燈
妃燈「名前?」
蒼牙「なんて呼ばれていたんだ?」
妃燈「おいとか、ちょっととか……」
うなだれる蒼牙
蒼牙M(紅谷の娘じゃないのか?)
蒼牙M(だが、母親と一緒にいたのなら、名前くらいあるだろ?)
蒼牙「母親からは、なんて呼ばれていたんだ?」
妃燈「母さま、しゃべれないから……」
わけのわからぬ怒りが込み上げてくる蒼牙はぎゅっと右手を握りしめる
蒼牙「名前がないと不便だな」
妃燈「おいとか、ちょっととか、そんなふうに呼べばいいです」
顎に手を当て考え込む蒼牙
頭に浮かんできたのは、昔に会った女性の影
蒼牙M(確か、あの女の名前は……)
蒼牙「……妃燈だ。今日から妃燈という名を名乗れ」
妃燈「妃燈?」
※軽く首をかしげる
蒼牙「ああ、名前を呼ばれたら返事をしろ」
妃燈はしっくりこないのか、不思議そうにぼんやりしている
蒼牙は呆れたように軽く息を吐く
蒼牙「腹は減っていないか?」
蒼牙「この屋敷で何が行われていたのか、おまえから詳しく話を聞きたい」
妃燈は蒼牙から視線を逸らし、下を向く
蒼牙「それに、おまえは俺を殺すんだろ? そんなやせ細った身体では、俺を殺せないぞ?」
妃燈は反応を示さない
蒼牙M(人形と話をしているみたいだ)
蒼牙「おまえは、紅谷龍一郎の娘か? あれを父と呼んだだろ?」
ぴくっと身体を震わせ、顔を上げる妃燈
蒼牙M(こちらの話に答える気はあるようだな)
妃燈「はい……紅谷龍一郎は、わたしの父だと……」
妃燈「だから、父さまと呼ぶように言われました」
蒼牙M(やはり……顔立ちも、なんとなく紅谷に似ているな)
※生前の龍一郎の顔を思い浮かべる
蒼牙「おまえの母親はどんな人だ? 妖鬼人か?」
妃燈「母さまは妖鬼人です。わたしを産んでからは、ほとんど寝たきりで……。薬を飲まないといけなくて……」
※寂しそうに顔を伏せる
蒼牙「しゃべれないと言っていたな。それはいつからだ?」
下を向いたまま、首を横に振る妃燈
蒼牙M(紅谷が何かしでかしたのか?)
蒼牙「この屋敷には妖鬼人が捕らえられていた。それについて、おまえは何か知っているか?」
ぴくりと身体を震わせ、反応を示す妃燈
蒼牙M(知っていそうだな……)
妃燈「わたし、わたし……」
※力の暴走の前兆、妃燈の身体からもや(邪力)が立ち始める
蒼牙「落ち着け。おまえを責めているわけじゃない」
※妃燈の肩に手を添える
蒼牙「事実を知りたいだけだ」
妃燈「母さま、母さま……あぁ、母さまは死んでしまった……」
※焦点が合わないようなうつろな目で、「母さま」と口にする妃燈
※身体からは邪力(もや)があふれ、勢いを増す
蒼牙M(まずいな……)
室内のふすまや障子戸がカタカタと音を立て始める
妃燈「母さま、母さまを殺した……父さまを許さない……」
妃燈の額にうっすら角が見え始める、目の焦点もあっていない
妃燈「父さま……殺す……」
妃燈の身体から、邪力が溢れ出す(もやも濃くなり、炎のように妃燈の身体から出ている)
蒼牙「落ち着け」
妃燈の肩をしっかり押さえつける蒼牙だが、妃燈の力が暴れ、かまいたちのような鋭い風となって室内を切り刻み始める
障子やふすまなどにも、切られたような跡がつき、蒼牙にも鋭い風が襲う
蒼牙「ちっ」
※頬を切られた蒼牙は血を流す
蒼牙M(怒りに飲み込まれ、邪力が暴走している……このままでは)
蒼牙は妃燈を抱き寄せ、口づけをする
妃燈「んっ」
驚き目を見開いたままの妃燈
蒼牙は人工呼吸をするかのように、口から妃燈の邪力を吸い、自分の浄力を注ぎ込む
がたがたと音を立てていた室内は少しずつ落ち着きを取り戻し、かまいたちのような風も次第にやむと、最後に花びらがひらひらと舞い、静かに消える
妃燈の身体から力が抜け、蒼牙に寄りかかるような形になったところで、唇を離す
ほのかに頬を染める妃燈に、光の粒子が舞う
蒼牙「落ち着いたか?」
妃燈「あっ……ごめんなさい……」
蒼牙に怪我をさせた自覚がある妃燈は、蒼牙の頬に触れようとするが、蒼牙がその手を拒む
蒼牙「大したことない」
蒼牙「俺を殺す人間が、俺の怪我の心配をしてどうする?」
※意地悪そうに笑い、支えていた妃燈の身体を離す
妃燈「でも、血が出ています。ばい菌が入ったら、大変ですから」
あたふたと起き出そうとする妃燈を、蒼牙は手で制す
蒼牙「問題ない」
血を流していた切り傷は自然とふさがっていき、残ったのは血の痕のみ
それを蒼牙は袖でぬぐう
妃燈「あ、怪我が治った……?」
※驚き目を見開く
蒼牙「だから、問題ないと言っただろ?」
蒼牙「俺には……死ねない呪いがかけられているらしい」
※回想:呪いをかけた相手が妃燈という名の女性、その影がぼんやり思い出される
妃燈「死ねない呪い……?」
蒼牙「ああ。こう見えても200年以上、生きているからな」
※自嘲気味に笑う
妃燈「だから、わたしに殺せと……?」
肯定も否定もせず、蒼牙はニヤリと笑う
妃燈M(本当に、200年以上も生きているの? 不老不死なの?)
※信じられないといった様子で蒼牙を凝視する
蒼牙「信じるも信じないも自由だ」
蒼牙「とりあえず、今はゆっくり休め」
蒼牙「腹が減っているなら、食事も用意する」
妃燈「少し眠りたいです……」
※首を横に振る妃燈
蒼牙「ああ、ゆっくりおやすみ」
妃燈の頭をやさしくなで、妃燈が横になって眠るのを見届ける
蒼牙M(やはり、この娘は半妖だ……そして紅谷の娘)
蒼牙M(あの男、いったい何をやっていたんだ)
蒼牙M(それよりもこの娘の母親を探すのが先か)
※怒りに満ちた表情で部屋を出ていく蒼牙
妃燈M(母さまを助けなきゃ)
屋根裏部屋を飛び出し、龍一郎がいる執務室へと向かう
ノックもせずに乱暴に扉を開ける
妃燈「父さま! 母さまが!」
執務席に座る龍一郎に食って掛かろうとする妃燈
龍一郎「取り押さえろ」
※近くに控えている部下に命じる
龍一郎の部下二人によって、身体を押さえつけられる妃燈
そこに龍一郎がゆっくり近づいてくる
龍一郎「おまえも16歳になった。そろそろ子も産める年だろう?」
※獲物を狙うような視線、妃燈の顎に手を添え上を向かせる
龍一郎「もう、あの女は子を産めない」
※妃燈を上から見下ろす
妃燈M(あの女って……母さま?)
※龍一郎を睨みつける
龍一郎「おまえを産んでからも、何年も子種を注いできたというのに」
龍一郎「結局、おまえ以外は実にならなかった」
※舌なめずりをする
龍一郎「半妖からどのような子が生まれるのか……楽しみだな」
危険を感じ、龍一郎から顔を逸らし、身をよじって逃げようとする妃燈
宙一郎は手を上げ、暴れる妃燈の頬をぴしゃっと叩く
龍一郎「邪力にまみれたおまえたちが、不自由なく暮らせているのは誰のおかげだ?」
頬を腫らし、涙をためる妃燈は、唇を噛みしめ龍一郎を睨みつける
妃燈の身体から邪力(身体からもやが経ち始める)が、あふれそうになる
龍一郎「ほぅ?」
※馬鹿にしたような笑みを浮かべる
龍一郎「力を使うか? 私に逆らうのか? 母親がどうなってもいいのか?」
妃燈の身体から邪力(もや)が消え始める
ふぅふぅと荒く息を吐く妃燈
龍一郎「これを地下に繋いでおけ」
「離せ」「触るな」とわめきながら、龍一郎の部下によって引きずられるようにして地下牢へと連れていかれる妃燈
○地下牢
牢に入れられ、さらに足に枷を嵌められる妃燈
部下1「おとなしくしておけ。逃げられると思うなよ」
鉄格子越しに地下から出ていく部下たちをぼんやり見ている妃燈
彼らがいなくなると、周囲は静かで薄暗い
妃燈M(母さま……)
※部屋に残してきた母親を思う
○地下牢に入れられて数日後
ピシっと鞭が打ち付けられる音が響く
龍一郎が妃燈の背を鞭で叩く
龍一郎「黙って、言うことを聞けばいいものを……」
※鞭を振り上げる
龍一郎に反抗的な視線を向ける妃燈
龍一郎「母親がどうなってもいいのか!」
妃燈「母さまをどこにやった!」
妃燈「母さまの力を感じない」
龍一郎「黙れ」
ぴしっと鞭で妃燈を打つと、その場に妃燈は倒れて気を失う
妃燈M(母さま……どこに行ったの?)
※目を閉じる妃燈、暗転
○焔陽国、紅谷家の屋敷(客間)、現在に戻る
竿縁天井の和室にふかふかの布団が敷いてあり、そこで横になって眠っている妃燈
部屋の付書院に腰掛け、後ろの障子から明かりを取り込むような形で書物を読んでいる蒼牙
妃燈が目覚めた気配を察し、その場から彼女に視線を向ける
蒼牙「目が覚めたか」
※読んでいた書物を手にしたまま
蒼牙M(どうやら、落ち着いているみたいだな。邪力の乱れはない)
声をかけられ、身体を起こすと蒼牙を見てくる浴衣姿の妃燈
妃燈「ここは……?」
※きょろきょろと室内を確認する
蒼牙「残念ながら、紅谷家の屋敷だな。俺たちが占拠した」
妃燈「母さまは?」
蒼牙M(母親がいたのか?)
※手にしていた書物は付書院の上に置いて、顔をしかめる
蒼牙M(俺たちが突入したときは、ひどいありさまだった)
※回想:紅谷家の屋敷内に広がる怒号と悲鳴
蒼牙M(多くの妖鬼人が捕らえられていた)
蒼牙M(非人道的な扱いを受け、売られた者もいるのだろう)
※回想:座敷牢に閉じ込められていた妖鬼人たち
蒼牙「屋敷に捕らえられた妖鬼人は、保護している」
立ち上がり、ゆっくり妃燈に近づくと、妃燈の隣にあぐらをかいて座る
蒼牙「おまえは、紅谷の娘か?」
※妃燈の目を射抜くように見つめるが、妃燈は下を向いたまま何も言わない
蒼牙「名前は?」
顔を上げる妃燈
妃燈「名前?」
蒼牙「なんて呼ばれていたんだ?」
妃燈「おいとか、ちょっととか……」
うなだれる蒼牙
蒼牙M(紅谷の娘じゃないのか?)
蒼牙M(だが、母親と一緒にいたのなら、名前くらいあるだろ?)
蒼牙「母親からは、なんて呼ばれていたんだ?」
妃燈「母さま、しゃべれないから……」
わけのわからぬ怒りが込み上げてくる蒼牙はぎゅっと右手を握りしめる
蒼牙「名前がないと不便だな」
妃燈「おいとか、ちょっととか、そんなふうに呼べばいいです」
顎に手を当て考え込む蒼牙
頭に浮かんできたのは、昔に会った女性の影
蒼牙M(確か、あの女の名前は……)
蒼牙「……妃燈だ。今日から妃燈という名を名乗れ」
妃燈「妃燈?」
※軽く首をかしげる
蒼牙「ああ、名前を呼ばれたら返事をしろ」
妃燈はしっくりこないのか、不思議そうにぼんやりしている
蒼牙は呆れたように軽く息を吐く
蒼牙「腹は減っていないか?」
蒼牙「この屋敷で何が行われていたのか、おまえから詳しく話を聞きたい」
妃燈は蒼牙から視線を逸らし、下を向く
蒼牙「それに、おまえは俺を殺すんだろ? そんなやせ細った身体では、俺を殺せないぞ?」
妃燈は反応を示さない
蒼牙M(人形と話をしているみたいだ)
蒼牙「おまえは、紅谷龍一郎の娘か? あれを父と呼んだだろ?」
ぴくっと身体を震わせ、顔を上げる妃燈
蒼牙M(こちらの話に答える気はあるようだな)
妃燈「はい……紅谷龍一郎は、わたしの父だと……」
妃燈「だから、父さまと呼ぶように言われました」
蒼牙M(やはり……顔立ちも、なんとなく紅谷に似ているな)
※生前の龍一郎の顔を思い浮かべる
蒼牙「おまえの母親はどんな人だ? 妖鬼人か?」
妃燈「母さまは妖鬼人です。わたしを産んでからは、ほとんど寝たきりで……。薬を飲まないといけなくて……」
※寂しそうに顔を伏せる
蒼牙「しゃべれないと言っていたな。それはいつからだ?」
下を向いたまま、首を横に振る妃燈
蒼牙M(紅谷が何かしでかしたのか?)
蒼牙「この屋敷には妖鬼人が捕らえられていた。それについて、おまえは何か知っているか?」
ぴくりと身体を震わせ、反応を示す妃燈
蒼牙M(知っていそうだな……)
妃燈「わたし、わたし……」
※力の暴走の前兆、妃燈の身体からもや(邪力)が立ち始める
蒼牙「落ち着け。おまえを責めているわけじゃない」
※妃燈の肩に手を添える
蒼牙「事実を知りたいだけだ」
妃燈「母さま、母さま……あぁ、母さまは死んでしまった……」
※焦点が合わないようなうつろな目で、「母さま」と口にする妃燈
※身体からは邪力(もや)があふれ、勢いを増す
蒼牙M(まずいな……)
室内のふすまや障子戸がカタカタと音を立て始める
妃燈「母さま、母さまを殺した……父さまを許さない……」
妃燈の額にうっすら角が見え始める、目の焦点もあっていない
妃燈「父さま……殺す……」
妃燈の身体から、邪力が溢れ出す(もやも濃くなり、炎のように妃燈の身体から出ている)
蒼牙「落ち着け」
妃燈の肩をしっかり押さえつける蒼牙だが、妃燈の力が暴れ、かまいたちのような鋭い風となって室内を切り刻み始める
障子やふすまなどにも、切られたような跡がつき、蒼牙にも鋭い風が襲う
蒼牙「ちっ」
※頬を切られた蒼牙は血を流す
蒼牙M(怒りに飲み込まれ、邪力が暴走している……このままでは)
蒼牙は妃燈を抱き寄せ、口づけをする
妃燈「んっ」
驚き目を見開いたままの妃燈
蒼牙は人工呼吸をするかのように、口から妃燈の邪力を吸い、自分の浄力を注ぎ込む
がたがたと音を立てていた室内は少しずつ落ち着きを取り戻し、かまいたちのような風も次第にやむと、最後に花びらがひらひらと舞い、静かに消える
妃燈の身体から力が抜け、蒼牙に寄りかかるような形になったところで、唇を離す
ほのかに頬を染める妃燈に、光の粒子が舞う
蒼牙「落ち着いたか?」
妃燈「あっ……ごめんなさい……」
蒼牙に怪我をさせた自覚がある妃燈は、蒼牙の頬に触れようとするが、蒼牙がその手を拒む
蒼牙「大したことない」
蒼牙「俺を殺す人間が、俺の怪我の心配をしてどうする?」
※意地悪そうに笑い、支えていた妃燈の身体を離す
妃燈「でも、血が出ています。ばい菌が入ったら、大変ですから」
あたふたと起き出そうとする妃燈を、蒼牙は手で制す
蒼牙「問題ない」
血を流していた切り傷は自然とふさがっていき、残ったのは血の痕のみ
それを蒼牙は袖でぬぐう
妃燈「あ、怪我が治った……?」
※驚き目を見開く
蒼牙「だから、問題ないと言っただろ?」
蒼牙「俺には……死ねない呪いがかけられているらしい」
※回想:呪いをかけた相手が妃燈という名の女性、その影がぼんやり思い出される
妃燈「死ねない呪い……?」
蒼牙「ああ。こう見えても200年以上、生きているからな」
※自嘲気味に笑う
妃燈「だから、わたしに殺せと……?」
肯定も否定もせず、蒼牙はニヤリと笑う
妃燈M(本当に、200年以上も生きているの? 不老不死なの?)
※信じられないといった様子で蒼牙を凝視する
蒼牙「信じるも信じないも自由だ」
蒼牙「とりあえず、今はゆっくり休め」
蒼牙「腹が減っているなら、食事も用意する」
妃燈「少し眠りたいです……」
※首を横に振る妃燈
蒼牙「ああ、ゆっくりおやすみ」
妃燈の頭をやさしくなで、妃燈が横になって眠るのを見届ける
蒼牙M(やはり、この娘は半妖だ……そして紅谷の娘)
蒼牙M(あの男、いったい何をやっていたんだ)
蒼牙M(それよりもこの娘の母親を探すのが先か)
※怒りに満ちた表情で部屋を出ていく蒼牙



