扉が閉まった後、しばらく窓の外を見る。
夜の星が輝いている。王宮の庭は暗いのに、花壇だけがほの白く浮かんで見えた。
(何年後になるかわからないけれど、セリアはルシファーに会う)
(それまで私たちは、それぞれの日々を生きる)
(セリアが笑えるように。私も笑えるように)
「マリアンナ?」
クロードの声がした。
「……殿下?」
「遅かったね。セリア嬢と話してた?」
「うん。ちょっと——未来の話を」
「どんな?」
「セリアの、夢の話」
クロードが私の隣に来て、同じように窓の外を見た。
肩が触れそうで触れない距離が、落ち着く。昔は考えられなかった。
「セリア嬢の夢か」
「うん。まだ先のことだけど——きっと叶うと思う」
「マリアンナがそう言うなら、叶うだろうな」
「なんで」
「マリアンナの『きっと』は、大抵当たるから」
「……それは殿下の観察眼が良すぎるだけです」
「マリアンナの行動力が確かなだけだよ」
クロードが、私を見た。
「ありがとう、マリアンナ」
「また『ありがとう』。何に対してですか今回は」
「傍にいてくれること。——それだけで十分だよ」
それだけで十分、か。
私は少し笑った。笑うと、胸の奥が静かになる。
「私も」
「え?」
「それだけで十分。私も」
クロードが少し目を細めた。
「良かった」
「良かった、って毎回言いますね」
「良かった時に言いたいから」
「……じゃあ、良かったですよ。ちゃんと言えて」
「ありがとう」
「どういたしまして」
窓の外で、風が木々を揺らした。
遠くで、セリアが部屋の明かりをつけているのが見えた。
(研究再開してる……)
本当に勤勉な妹だ。
「……殿下」
「うん?」
「一つ、聞いてもいいですか」
「なんでも」
「私のこと、最初から好きだったって言ってましたよね」
「うん」
「それって——私が転んだふりをした時から?」
「正確にはその後、かな。転んだふりだと気づいた上で『ありがとうございます』と受け取って、セリア嬢を紹介してきた。その一連の行動が——面白くて、気になって」
「気になって?」
「この子は何を考えてるんだろう、と思って。そのまま、ずっと気になり続けた」
「……十年以上、気になり続けたんですか」
「うん。時間がかかったけど——ここまで来た」
「……遠回りしましたね、お互いに」
「そうかな。マリアンナのペースで来たから——ちょうど良かったと思ってるよ」
クロードが静かに笑った。
「——おかげで、長く知り合えた」
「……確かに」
「それで十分だよ」
窓の外の星が瞬いた。
——やっと、全部が繋がった気がした。
転生して。赤ちゃんから始めて。セリアを守ろうとして。
自分の気持ちを封印して。セリアに指摘されて。クロードに待っていてもらって。
やっと、向き合えた。やっと、受け取れた。
「……ありがとうございます、殿下」
「今度はこっちがありがとうを言う番だよ」
「何に対して」
「待ってくれたこと。——来てくれたこと」
「来たのは赤ちゃんですけど」
顔が、きょとんとして止まる。
「え?」
「ですから。赤ちゃんが来ました」
やがて意味を理解したクロードに、抱き寄せられる。
腕の力が強くて、少しだけ手が震えているのを感じた。
彼のほうも、まだ時々こうなるのだ。
幸せ。心から、そう思う。
この世界に来て、セリアの双子の姉として生まれて、十七年かけて、ここまで来た。
夜が更けていく。
窓の外では、セリアの部屋の明かりがまだ灯っていた。
夜の星が輝いている。王宮の庭は暗いのに、花壇だけがほの白く浮かんで見えた。
(何年後になるかわからないけれど、セリアはルシファーに会う)
(それまで私たちは、それぞれの日々を生きる)
(セリアが笑えるように。私も笑えるように)
「マリアンナ?」
クロードの声がした。
「……殿下?」
「遅かったね。セリア嬢と話してた?」
「うん。ちょっと——未来の話を」
「どんな?」
「セリアの、夢の話」
クロードが私の隣に来て、同じように窓の外を見た。
肩が触れそうで触れない距離が、落ち着く。昔は考えられなかった。
「セリア嬢の夢か」
「うん。まだ先のことだけど——きっと叶うと思う」
「マリアンナがそう言うなら、叶うだろうな」
「なんで」
「マリアンナの『きっと』は、大抵当たるから」
「……それは殿下の観察眼が良すぎるだけです」
「マリアンナの行動力が確かなだけだよ」
クロードが、私を見た。
「ありがとう、マリアンナ」
「また『ありがとう』。何に対してですか今回は」
「傍にいてくれること。——それだけで十分だよ」
それだけで十分、か。
私は少し笑った。笑うと、胸の奥が静かになる。
「私も」
「え?」
「それだけで十分。私も」
クロードが少し目を細めた。
「良かった」
「良かった、って毎回言いますね」
「良かった時に言いたいから」
「……じゃあ、良かったですよ。ちゃんと言えて」
「ありがとう」
「どういたしまして」
窓の外で、風が木々を揺らした。
遠くで、セリアが部屋の明かりをつけているのが見えた。
(研究再開してる……)
本当に勤勉な妹だ。
「……殿下」
「うん?」
「一つ、聞いてもいいですか」
「なんでも」
「私のこと、最初から好きだったって言ってましたよね」
「うん」
「それって——私が転んだふりをした時から?」
「正確にはその後、かな。転んだふりだと気づいた上で『ありがとうございます』と受け取って、セリア嬢を紹介してきた。その一連の行動が——面白くて、気になって」
「気になって?」
「この子は何を考えてるんだろう、と思って。そのまま、ずっと気になり続けた」
「……十年以上、気になり続けたんですか」
「うん。時間がかかったけど——ここまで来た」
「……遠回りしましたね、お互いに」
「そうかな。マリアンナのペースで来たから——ちょうど良かったと思ってるよ」
クロードが静かに笑った。
「——おかげで、長く知り合えた」
「……確かに」
「それで十分だよ」
窓の外の星が瞬いた。
——やっと、全部が繋がった気がした。
転生して。赤ちゃんから始めて。セリアを守ろうとして。
自分の気持ちを封印して。セリアに指摘されて。クロードに待っていてもらって。
やっと、向き合えた。やっと、受け取れた。
「……ありがとうございます、殿下」
「今度はこっちがありがとうを言う番だよ」
「何に対して」
「待ってくれたこと。——来てくれたこと」
「来たのは赤ちゃんですけど」
顔が、きょとんとして止まる。
「え?」
「ですから。赤ちゃんが来ました」
やがて意味を理解したクロードに、抱き寄せられる。
腕の力が強くて、少しだけ手が震えているのを感じた。
彼のほうも、まだ時々こうなるのだ。
幸せ。心から、そう思う。
この世界に来て、セリアの双子の姉として生まれて、十七年かけて、ここまで来た。
夜が更けていく。
窓の外では、セリアの部屋の明かりがまだ灯っていた。



