沈黙が落ちた。
五秒ほど、私は瞬きすら忘れて動けなかった。
心臓だけが、どく、と一度大きく鳴る。
「……えっ」
「前世の記憶がある。別の世界で生きていた、別の自分の記憶が。そこではこの世界は——ゲームだった」
「……っ」
「『聖女の涙、君に捧ぐ』。知ってる?」
胸の奥が跳ねた。
言葉の形は知っているのに、現実の口から出ると重い。
「……知ってる」
「やっぱり」
セリアが小さく笑った。
「マリアンナも、同じゲームを知ってるんだね」
「知ってるどころか……」
「どころか?」
「……廃人と言われるほど、やり込んでいた」
セリアが目を丸くした。
そして——くすっと笑った。
「それはすごい」
「笑わないで……!」
「ごめん。でも……うれしかった。マリアンナも同じ世界を知ってたんだって」
セリアが私をじっと見た。
笑いが消えて、真剣さだけが残る。
「マリアンナは、私が——セリアが——ヒロインだって知ってたんだね」
「……うん」
「そして、ヒロインには悲しいルートが多いってことも」
「……知ってた」
「だから、ずっと私を守ろうとして——クロード殿下ルートへ誘導しようとしてたの?」
ゆっくり頷く。
「セリアのことが——ゲームの時から、ずっと大好きだったから。悲しいエンディングを迎えてほしくなくて」
「マリアンナ……」
「でもね、正直に言うと——最初から転生先がセリアの双子の姉だってわかった時、嬉しかった。セリアと一緒にいられるって思って」
「嬉しかったの?」
「すごく。最推しの双子の姉妹に生まれたんだって」
セリアがまた、くすっと笑った。
その笑い方が昔と変わらなくて、胸が少しだけ温かくなる。
「さい、おし?」
「……好きなキャラのことをそう呼んでいた。前世の言葉で」
「ふうん。私が、マリアンナの最推し」
「そう」
「それは……なんか、照れるね」
セリアが頬に手を当てた。
照れた顔が、可愛い。……可愛いって言っていいのか、よくわからない状況なのに、いつもと同じ感想が出てくるのが少し面白い。
「私もね、マリアンナが言う『最推し』みたいな存在がいるよ」
「……この世界の人?」
「ゲームの続編に出てくるキャラクターでね」
「続編……?」
「『聖女の涙、君に捧ぐ 続——魔王の夜明け』。知ってる?」
そのタイトルには、確かに聞き覚えがある。
「……発表はされてたけど、私が前世で亡くなった時点では、まだ発売前だった」
「そっか。私は発売した後の転生だったから、プレイしてたよ」
「ひょっとして続編の誰か?」
「タイトルの通り、攻略対象として魔王が出てくるの。名前はルシファー」
「魔王が攻略対象……!?」
「そう。本編では名前も顔も出てこなくて、謎の存在として匂わせで語られるだけなんだけど、続編でヒロイン——本編のセリアの娘が——彼と出会って、物語が展開する」
「娘……!?本編でクロードルートを攻略したセリアが娘を生んで、次世代ヒロインになるの?」
「うん。でも、私が最推しなのは魔王のルシファー」
セリアが、うっとりとした顔をした。
「ルシファーは……ほんとうに、最高なの。見た目は怖くて不遜で、でも実は誰よりも孤独で。ヒロインだけに少しずつ心を開いていって——ラスト前のシーン、私、泣き崩れたよ。画面の前で」
セリアの目が、うっとりと光っている。
暗い部屋なのに、その熱量だけがやけに眩しい。
「声も、さいっこーだったなぁ」
「……セリアも廃人だったの?」
「そこまでじゃないけど、ルシファーのルートは五回くらいやった」
「五回……まあうん、うん、わかる」
気づいたら私たちは、最推しキャラが最高だった話を興奮気味に語り合っていた。
笑って、身振りまで大きくなって、途中で息が切れて。
ふと我に返って、お互いの顔を見合わせる。
「……私たち、同じゲームを知ってる転生者同士だったんだね」
「そうだね……」
「でも、マリアンナは転生直後から知ってた?この世界がゲームだって」
「うん。赤ちゃんの頃から気づいてた」
「私も。最初に目が覚めた時から、ここがゲームの世界だって確信してた」
「じゃあ、ずっと知ってたのに——黙ってたんだね。お互いに」
セリアが少し困ったような、でも笑っているような顔をした。
「私がゲームのことを話したら、マリアンナが変に気を遣うかもしれないって思って」
「気を遣う?」
「だって——私、自分がヒロインだって知ってるし、悲しいルートがあることも知ってる。でも、マリアンナに『可哀想なセリア』として見られたくなかった」
五秒ほど、私は瞬きすら忘れて動けなかった。
心臓だけが、どく、と一度大きく鳴る。
「……えっ」
「前世の記憶がある。別の世界で生きていた、別の自分の記憶が。そこではこの世界は——ゲームだった」
「……っ」
「『聖女の涙、君に捧ぐ』。知ってる?」
胸の奥が跳ねた。
言葉の形は知っているのに、現実の口から出ると重い。
「……知ってる」
「やっぱり」
セリアが小さく笑った。
「マリアンナも、同じゲームを知ってるんだね」
「知ってるどころか……」
「どころか?」
「……廃人と言われるほど、やり込んでいた」
セリアが目を丸くした。
そして——くすっと笑った。
「それはすごい」
「笑わないで……!」
「ごめん。でも……うれしかった。マリアンナも同じ世界を知ってたんだって」
セリアが私をじっと見た。
笑いが消えて、真剣さだけが残る。
「マリアンナは、私が——セリアが——ヒロインだって知ってたんだね」
「……うん」
「そして、ヒロインには悲しいルートが多いってことも」
「……知ってた」
「だから、ずっと私を守ろうとして——クロード殿下ルートへ誘導しようとしてたの?」
ゆっくり頷く。
「セリアのことが——ゲームの時から、ずっと大好きだったから。悲しいエンディングを迎えてほしくなくて」
「マリアンナ……」
「でもね、正直に言うと——最初から転生先がセリアの双子の姉だってわかった時、嬉しかった。セリアと一緒にいられるって思って」
「嬉しかったの?」
「すごく。最推しの双子の姉妹に生まれたんだって」
セリアがまた、くすっと笑った。
その笑い方が昔と変わらなくて、胸が少しだけ温かくなる。
「さい、おし?」
「……好きなキャラのことをそう呼んでいた。前世の言葉で」
「ふうん。私が、マリアンナの最推し」
「そう」
「それは……なんか、照れるね」
セリアが頬に手を当てた。
照れた顔が、可愛い。……可愛いって言っていいのか、よくわからない状況なのに、いつもと同じ感想が出てくるのが少し面白い。
「私もね、マリアンナが言う『最推し』みたいな存在がいるよ」
「……この世界の人?」
「ゲームの続編に出てくるキャラクターでね」
「続編……?」
「『聖女の涙、君に捧ぐ 続——魔王の夜明け』。知ってる?」
そのタイトルには、確かに聞き覚えがある。
「……発表はされてたけど、私が前世で亡くなった時点では、まだ発売前だった」
「そっか。私は発売した後の転生だったから、プレイしてたよ」
「ひょっとして続編の誰か?」
「タイトルの通り、攻略対象として魔王が出てくるの。名前はルシファー」
「魔王が攻略対象……!?」
「そう。本編では名前も顔も出てこなくて、謎の存在として匂わせで語られるだけなんだけど、続編でヒロイン——本編のセリアの娘が——彼と出会って、物語が展開する」
「娘……!?本編でクロードルートを攻略したセリアが娘を生んで、次世代ヒロインになるの?」
「うん。でも、私が最推しなのは魔王のルシファー」
セリアが、うっとりとした顔をした。
「ルシファーは……ほんとうに、最高なの。見た目は怖くて不遜で、でも実は誰よりも孤独で。ヒロインだけに少しずつ心を開いていって——ラスト前のシーン、私、泣き崩れたよ。画面の前で」
セリアの目が、うっとりと光っている。
暗い部屋なのに、その熱量だけがやけに眩しい。
「声も、さいっこーだったなぁ」
「……セリアも廃人だったの?」
「そこまでじゃないけど、ルシファーのルートは五回くらいやった」
「五回……まあうん、うん、わかる」
気づいたら私たちは、最推しキャラが最高だった話を興奮気味に語り合っていた。
笑って、身振りまで大きくなって、途中で息が切れて。
ふと我に返って、お互いの顔を見合わせる。
「……私たち、同じゲームを知ってる転生者同士だったんだね」
「そうだね……」
「でも、マリアンナは転生直後から知ってた?この世界がゲームだって」
「うん。赤ちゃんの頃から気づいてた」
「私も。最初に目が覚めた時から、ここがゲームの世界だって確信してた」
「じゃあ、ずっと知ってたのに——黙ってたんだね。お互いに」
セリアが少し困ったような、でも笑っているような顔をした。
「私がゲームのことを話したら、マリアンナが変に気を遣うかもしれないって思って」
「気を遣う?」
「だって——私、自分がヒロインだって知ってるし、悲しいルートがあることも知ってる。でも、マリアンナに『可哀想なセリア』として見られたくなかった」



