3日前、6月1日月曜日。
やりたいことをする、って何だろう。だって、出来ることには限りがあるじゃない。
例えばアイスを食べたいは叶えられるかもしれないけれど、今からアメリカに行きたいと思っても叶えられるものじゃない。もっと言えば、私は会社員にはなれたけれど、アイドルになりたかったらなれる訳じゃない。
でも、ずっとやりたいことを出来る人に憧れていた。そんなやりたいことが出来る人間に、幼い頃からずっとずーっと憧れていた。そんな人になってみたかった。
しかし、実際に成長にしたのは、何を言われても言い返せないような理想とかけ離れた人間だった。
毎日のように上司に怒鳴られ、泣いても泣いても世界は変わらず、絶望した。まずパワハラをする上司が悪いに決まっているのに、なんで私が苦しまないといけないの。そう友人に話した。そんな私に中学校時代からの友人は、慰めの言葉をかけなかった。代わりに、ただただ真剣に私を救おうとした。
『ねぇ、憑依屋って知っている?』
友人のいう意味が分からなかった。しかし、本当に困っていた私は友人に紹介された店に電話をかけた。そして、なぜか従業員は話を聞く場所に私の家を指定した。
『えっと、お店はないんですか?』
『そうなんですよ、すみません。お客様のお自宅でお話を聞くのがウチのスタイルでして』
若い男性のような声の店長。きっと信頼出来る友人からの紹介でなければ、絶対にこんな怪しい店を使わなかった。そして、店長の男性はこう続けた。
『担当者が参りますので、カーテンを閉めてお待ち下さい』
意味が分からない要求を一応守り、カーテンを閉めて迎え入れたのは私と同じくらいの若い女性だった。
女性は無表情で私の話を聞いていた。私が泣きながら上司に言われた暴言を伝え、怯え、震えながら話しているのを無表情で聞いていた。
『そんなことも出来ねーの?』
『はぁ……もっと有能な部下が欲しかった』
『俺の手を煩わせるんじゃない!!!』
『そんな顔をすれば許されるとでも思っているのか!!!』
『馬鹿が! 面倒を見る俺の気持ちにもなってみろ!!!』
こんなことを言われたんです! 酷いでしょう!?
辛くて辛くてたまらないのに、何も言い返すことが出来なくて!
毎日のように上司がバッシングされるような世界になって欲しいと願っているし、私に優しい社会になって欲しい。本当に辛いんです。
彼女は無表情に静かに話を聞くから、逆に話しやすかった。
しかし、私が彼女に出したお茶を片付けようとした時、思いっきり私は転んでしまった。
そして、ぶつかってカーテンに当たり、服に引っかかってカーテンが少し開いた。そして、差し込んだ日光が彼女に当たった瞬間……彼女は何故か泣き出した。
『辛い……何で私がこんなことを言われないといけないのっ……!』
そう言って、突然泣き出した。
『課長も酷すぎる! 家でなら言い返せるけれど、実際は何も言えない自分も嫌い……』
それは、【まさに私だった】。
そして、私はやっと友人の言葉を思い出したのだ。
『ねぇ、憑依屋って知っている?』
私は慌てて店に電話をして、店長の男性に状況を伝えた。
「あちゃー、日光を当てちゃいましたか。彼女の特性は、日光で性格のスイッチを切り替えることなんです。丁度お客様の悲しんでいる様子を聞いていたので、それに憑依しちゃったみたいですね」
しばらく「うーん」と唸りながら悩んでいた店長は、もう一度状況を整理するように私に丁寧に説明してくれる。
「簡単にいうと、まさにウチは憑依屋なんです。どんな人間の性格にも憑依出来るので、まぁ例えば一番依頼で多いのは遠距離で会えない恋人のフリとかですかね?」
「はい?」
丁寧に説明されようと分からないものは分からない。
「うーん、本来は彼女が状況を把握した後、貴方のフリをして電話させる予定だったんです。電話の声なんて多少違っても気付きませんし」
店長は忙しそうに、もうそろそろ私との電話を切ろうとしている。
「ちょっと待って下さい! 結局私はどうしたら良いんですか!?」
「まぁ、適当に彼女の前でなりたい理想の自分を演じて、もう一度日光を当てて下さい」
「そんなこと出来るわけないでしょう!?」
あの時の店長の言葉を私は一生忘れないと思う。
「依頼主は貴方……『大津さん』です。貴方が責任を持って頑張って下さい。パワハラに対抗したいんでしょう?」
それから三日間、よく考えた。パワハラに悩み悲しみ私に憑依した彼女に、次に日光を当てる前にどんな自分を演じるかを。どんな理想の自分で課長に電話をかけてもらうかを。
彼女が私の代わりにパワハラの課長に電話してくれるというのなら、彼女の前だけでも理想の自分を演じよう。そして、私はもう一度彼女に会い、彼女に理想の自分を憑依し直した。
『したいことは絶対にするって決めているんです』
そうはっきり言えるような変人に。変人でいいから、理想を叶える芯のある人間になりたかった。
やりたいことをする、って何だろう。だって、出来ることには限りがあるじゃない。
例えばアイスを食べたいは叶えられるかもしれないけれど、今からアメリカに行きたいと思っても叶えられるものじゃない。もっと言えば、私は会社員にはなれたけれど、アイドルになりたかったらなれる訳じゃない。
でも、ずっとやりたいことを出来る人に憧れていた。そんなやりたいことが出来る人間に、幼い頃からずっとずーっと憧れていた。そんな人になってみたかった。
しかし、実際に成長にしたのは、何を言われても言い返せないような理想とかけ離れた人間だった。
毎日のように上司に怒鳴られ、泣いても泣いても世界は変わらず、絶望した。まずパワハラをする上司が悪いに決まっているのに、なんで私が苦しまないといけないの。そう友人に話した。そんな私に中学校時代からの友人は、慰めの言葉をかけなかった。代わりに、ただただ真剣に私を救おうとした。
『ねぇ、憑依屋って知っている?』
友人のいう意味が分からなかった。しかし、本当に困っていた私は友人に紹介された店に電話をかけた。そして、なぜか従業員は話を聞く場所に私の家を指定した。
『えっと、お店はないんですか?』
『そうなんですよ、すみません。お客様のお自宅でお話を聞くのがウチのスタイルでして』
若い男性のような声の店長。きっと信頼出来る友人からの紹介でなければ、絶対にこんな怪しい店を使わなかった。そして、店長の男性はこう続けた。
『担当者が参りますので、カーテンを閉めてお待ち下さい』
意味が分からない要求を一応守り、カーテンを閉めて迎え入れたのは私と同じくらいの若い女性だった。
女性は無表情で私の話を聞いていた。私が泣きながら上司に言われた暴言を伝え、怯え、震えながら話しているのを無表情で聞いていた。
『そんなことも出来ねーの?』
『はぁ……もっと有能な部下が欲しかった』
『俺の手を煩わせるんじゃない!!!』
『そんな顔をすれば許されるとでも思っているのか!!!』
『馬鹿が! 面倒を見る俺の気持ちにもなってみろ!!!』
こんなことを言われたんです! 酷いでしょう!?
辛くて辛くてたまらないのに、何も言い返すことが出来なくて!
毎日のように上司がバッシングされるような世界になって欲しいと願っているし、私に優しい社会になって欲しい。本当に辛いんです。
彼女は無表情に静かに話を聞くから、逆に話しやすかった。
しかし、私が彼女に出したお茶を片付けようとした時、思いっきり私は転んでしまった。
そして、ぶつかってカーテンに当たり、服に引っかかってカーテンが少し開いた。そして、差し込んだ日光が彼女に当たった瞬間……彼女は何故か泣き出した。
『辛い……何で私がこんなことを言われないといけないのっ……!』
そう言って、突然泣き出した。
『課長も酷すぎる! 家でなら言い返せるけれど、実際は何も言えない自分も嫌い……』
それは、【まさに私だった】。
そして、私はやっと友人の言葉を思い出したのだ。
『ねぇ、憑依屋って知っている?』
私は慌てて店に電話をして、店長の男性に状況を伝えた。
「あちゃー、日光を当てちゃいましたか。彼女の特性は、日光で性格のスイッチを切り替えることなんです。丁度お客様の悲しんでいる様子を聞いていたので、それに憑依しちゃったみたいですね」
しばらく「うーん」と唸りながら悩んでいた店長は、もう一度状況を整理するように私に丁寧に説明してくれる。
「簡単にいうと、まさにウチは憑依屋なんです。どんな人間の性格にも憑依出来るので、まぁ例えば一番依頼で多いのは遠距離で会えない恋人のフリとかですかね?」
「はい?」
丁寧に説明されようと分からないものは分からない。
「うーん、本来は彼女が状況を把握した後、貴方のフリをして電話させる予定だったんです。電話の声なんて多少違っても気付きませんし」
店長は忙しそうに、もうそろそろ私との電話を切ろうとしている。
「ちょっと待って下さい! 結局私はどうしたら良いんですか!?」
「まぁ、適当に彼女の前でなりたい理想の自分を演じて、もう一度日光を当てて下さい」
「そんなこと出来るわけないでしょう!?」
あの時の店長の言葉を私は一生忘れないと思う。
「依頼主は貴方……『大津さん』です。貴方が責任を持って頑張って下さい。パワハラに対抗したいんでしょう?」
それから三日間、よく考えた。パワハラに悩み悲しみ私に憑依した彼女に、次に日光を当てる前にどんな自分を演じるかを。どんな理想の自分で課長に電話をかけてもらうかを。
彼女が私の代わりにパワハラの課長に電話してくれるというのなら、彼女の前だけでも理想の自分を演じよう。そして、私はもう一度彼女に会い、彼女に理想の自分を憑依し直した。
『したいことは絶対にするって決めているんです』
そうはっきり言えるような変人に。変人でいいから、理想を叶える芯のある人間になりたかった。



