あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 静まり返った一条家の廊下を、蔵馬は一人歩いていた。

 規則正しく響く足音。

 祝宴で浮かべていた穏やかな笑みは、未だその顔へ張り付いている。

 けれど。
 人気のない廊下へ差しかかった瞬間だった。

 その笑みが、すっと薄れる。

 蔵馬は静かに足を止めた。

 「……堂目道紫鬼」

 低く呟く。

 脳裏へ浮かぶのは、あの紫の瞳。
 人ならざる圧倒的な妖気。

 そして。
 奈津を囲い込むように抱き寄せていた腕。

 しばらく黙り込んだ後。

 蔵馬は、ふっと目を細めた。

 「……面白い」

 ぽつり、と。
 その声音からは、感情がまるで読み取れない。
 
 まさかここまでとは。

 次の瞬間には。
 また何事もなかったように、完璧な微笑が戻っていた。

 まるで先ほどの表情すら、幻だったみたいに。

 その瞳だけが、静かに昏く沈んでいる。