あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 「続いて、本日皆様へご紹介したい方がいます」

 蔵馬が、穏やかに告げる。

 会場の視線が動く。

 ゆっくりと壇上へ現れたのは、綾乃だった。

 艶やかな亜麻色の髪は美しく結い上げられ、
 幾つもの高価な簪が、眩い灯りを受けてきらめいている。

 纏っているのは、豪華絢爛な振袖だった。

 幾重にも重ねられた上質な布地へ、華やかな刺繍が贅沢に施されている。

 奈津は思わず目を伏せる。

 ――ああ。
 きっと、この日のために用意されたものなのだ。

 九条家の誇りとして。
 一条家へ嫁ぐ娘として。

 自分には、一度も向けられることのなかった期待と愛情が、綾乃には惜しみなく注がれている。

 綾乃は優雅に微笑みながら、一礼した。
 会場から感嘆の声が漏れる。

 「お綺麗……」
 「さすが一条家に選ばれるだけある」

 綾乃は、その言葉を浴びるように微笑んでいた。
 恍惚とした優越感が、その全身を満たしている。

 そして不意に。
 綾乃の視線が、会場の隅にいる奈津へ向く。

 薄く細められた瞳。

 ――どう?

 そう問いかけるみたいに。

 お姉様には決して届かない場所へ、私は行くのだと。
 その笑みは、何より雄弁に語っていた。

 奈津はそっと視線を落とす。

 綾乃は眩しいほど華やかで。
 その姿は、自分とはまるで別世界の人間のようだった。

 早く終わってほしい。
 ただ、それだけを願っていた。

 やがて壇上を降りた綾乃の周囲へ、次々と人が集まっていく。

 「いやぁ、本当にお美しいお嬢さんだ」

 一条家関係者らしい壮年の男が、綾乃へ笑いかけた。

 「霊力の強さも申し分ない。これで時代も安泰ですな」

 父が嬉しそうに笑う。

 「はい。綾乃は親の私たちから見ても、本当に出来のいい娘でして」

 母も誇らしげに頷いた。

 その時。
 父の視線が、会場の隅にいた奈津へ向いた。

 嫌な予感がした。
 父は奈津へ向かって、顎をしゃくる。

 「おい」

 ”来い”と、命令するような声。
 奈津の指先が、ぎゅっと強張った。

 けれど逆らえるはずもなく、奈津は重い足取りで歩み寄る。

 「……それに比べて、こちらは不出来でしてな」

 奈津の肩がぴくりと揺れる。
 
 父は奈津の腕を掴み、強引に前へ引き出した。

 「っ……」

 「綾乃の嫁入りの際は、これも付き人として同行させます」

 奈津は目を見開く。
 そんなの、初耳だった。

 「な……」

 父は構わず続ける。

 「何せ、役立たずなもので」
 「好きに使っていただいて構いません」

 周囲の人間たちが、奈津を見る。

 「ああ……」

 納得したような顔。
 噂を知っているのだろう。
 奈津の胸が、じわりと痛む。

 「せめて妹の役に立てるなら本望でしょう」

 母も当然のように言った。
 奈津の意思など、最初から存在しないみたいに。

 昔なら。
 ここで俯いて終わっていた。

 けれど。
 奈津は、ぎゅっと拳を握る。

 胸元の勾玉が、微かに熱を帯びた。

 「……嫌です」

 静かな声だった。