あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 洋司と別れた後。

 奈津はしばらく、冬の街をぼんやり歩いていた。

 胸の奥は、不思議なくらい静かだった。

 悲しくもない。
 苦しくもない。

 ただ、自分の心がもう昔には戻れないのだと、
 静かに理解してしまった。

 やがて見えてきたのは、九条家の門だった。

 立派な門構え。
 手入れの行き届いた庭。
 祓い屋名門・一条家の分家としての威厳を誇示するような、大きな屋敷。

 けれど奈津にとって、ここは一度も安らげる場所ではなかった。

 帰ってきたというのに、胸の内は少しも落ち着かない。

 奈津は小さく息を吐く。

 そして、玄関へ手を伸ばした。

 その時だった。

 「――お姉様?」

 背後から響いた声に、奈津の手が止まる。

 ぞくり、と背筋が冷えた。
 聞き間違えるはずもない。

 奈津はゆっくり振り返る。
 冬の冷たい風の中。

 そこには、一人の少女が立っていた。
 
 艶やかな蜂蜜色の髪。

 奈津とよく似た顔立ち。
 けれど、その瞳には奈津にはない鋭さが宿っている。

 雪のように白い肌へ、薄い笑みが浮かんでいた。
 まるで最初から、奈津がここへ戻ってくることを分かっていたかのように。

 祓い屋名門・一条家の分家である九条家。
 その中でも“才ある娘”として愛され続けてきた少女。

 双子の妹――綾乃だった。