あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 それから数日。
 堂目道家の空気は、以前よりさらに穏やかなものへ変わっていた。

 「奈津、これ見てみろ」

 「え?」

 廊下の向こうから夜刀に呼ばれ、奈津はそちらへ顔を向ける。

 「コマが盛大にひっくり返した」

 「えぇっ!? ち、違います! ちょっと手が滑っただけです!」

 廊下の端で、散乱した荷物を前にコマが慌てていた。
 奈津は思わず吹き出す。
 以前なら、考えられなかったことだ。

 奈津は荷物の前にしゃがみ込む。

 「手伝うよ」
 
 妖たちもまた、奈津へ過剰に遠慮することが減っていた。

 「奈津様、これ九重様のところへお願いできますか?」
 
 「ありがとうございます!」

 気づけば自然に声を掛けられ。
 奈津もまた、当たり前みたいにその輪へ混ざっている。
 以前なら考えられなかったことだ。

 コマの笑い声。
 妖たちの話し声。
 時折響く夜刀の怒鳴り声。

 そんな賑やかな空気の中に、自分がいる。

 じん、と何かがこみあげてくる。

 私は、ここにいてもいいのかもしれない。
 ”居場所”
 そう思っても――いいのかもしれない。
 
 「奈津様」

 その時。
 背後から、静かな声が掛けられた。

 振り返る。
 
 そこには、九重が立っていた。

 いつも通り穏やかな笑み。

 けれど。
 その細められた目だけは、どこか静かだった。

 「少々、大事なお話があります」