あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 「夜刀様……!」

 いつの間に来ていたのか。
 夜刀は奈津の皿へ残っていた団子をひょいと奪うと、串へ刺さったまま豪快に齧りついた。

 「うま」

 「あ……!」

 「別に、癒し子ってだけでお前を受け入れたんじゃないだろうよ」

 団子を咀嚼しながら、夜刀が言う。

 奈津は目を瞬かせた。

 「え……?」

 「俺ら鬼っていうのは、自分が認めたモン以外は、とことん忌み嫌う」

 夜刀は中庭を見渡す。

 「その代わり、一度懐に入れたもんには――とことん甘ぇ」

 妖たちは少し気まずそうに視線を逸らした。
 図星なのだろう。

 「こいつらも、図りかねてるだけだ」
 「お前との距離感」
 「人間と関わることなんざ、ほとんどなかったからな」

 その時。

 「僕、奈津様のこと大好きです!」

 コマが元気よく手を挙げた。
 尻尾がぶんぶん揺れている。

 「奈津様が来てから、この屋敷変わったんです!」

 「みんなも、奈津様と仲良くしたいと思ってます!」

 妖たちは戸惑いながらも、否定しなかった。
 奈津の胸が、じわりと熱くなる。

 「俺は別に、仲良くする気ねーけどな」

 夜刀が新しい団子を咥えながら言う。
 だが口調ほど冷たくはない。

 奈津は小さく笑った。

 「……夜刀様、ありがとうございます」

 すると夜刀は露骨に顔をしかめた。

 「つーか、その“夜刀様”ってのやめろ」

 「え?」

 「お前が言うとなんか気色悪ぃ」

 「ええ……?」

 奈津は少し考え込む。

 「じゃあ……夜刀さん?」

 「奈津」

 奈津は目を丸くした。

 「俺がそう呼ぶんだから、お前もそうしろ」

 「……や、やと?」

 「何だそのカタコト」

 そう言いながら、夜刀の口元は少しだけ緩んでいた。

 「――奈津」

 静かな声が落ちる。

 ふ、と。
 中庭の空気が張り詰めた。

 奈津が振り返る。
 そこには紫鬼が立っていた。

 陽射しに透ける白銀の髪が、淡く揺れる。

 妖たちが一斉に居住まいを正す中、紫鬼だけが真っ直ぐ奈津を見ていた。