あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 奈津は、一人で廊下を歩いていた。

 窓の外では、柔らかな陽射しが庭を照らしている。

 堂目道家へ来たばかりの頃なら、こうして屋敷の中を歩くだけでも息が詰まりそうだった。

 妖たちの視線が怖くて。
 いつ襲われるのか分からなくて。

 けれど今は、もう違う。

 こんな風に過ごせるようになるなんて、思いもしなかった。

 (でも――)

 「奈津様ー!」

 ぱたぱたと廊下を駆けてきたコマが、奈津の前でぴたりと止まる。

 「こんなところにいたんですね!」

 「コマ?」

 「中庭でお団子配ってるんです! 一緒に行きましょー!」

 勢いよく手を引かれ、奈津は目を瞬かせた。

 「え、あ……」

 そのまま連れて行かれた中庭では、妖たちが思い思いに休憩していた。

 奈津が現れた瞬間、一瞬だけ空気が静まる。
 
 そして妖たちは、そそくさと立ち上がった。
 日当たりのいい長椅子を、奈津に勧める。
 
 「こちら、どうぞ」

 「あ……ありがとうございます」

 奈津は戸惑いながら席へ座る。

 以前のような敵意はない。

 けれど。
 どこか遠慮されているような、距離を置かれているような感覚も、まだ残っていた。

 ――癒し子様。

 そう呼ばれるたび、思う。

 妖たちが優しくしてくれるのは、自分が“癒し子”だからだ。
 紫鬼が、“堂目道家の恩人だ”と告げたから。

 人間と妖。
 本来なら交わらないはずの存在なのだから。
 これ以上を望むのは、贅沢なのだろうか。


 「奈津様、どうぞ!」

 コマがにこにこと団子を差し出す。

 「あ、ありがとう」

 受け取った奈津の隣へ、コマはそのまま当然みたいに座り込んだ。

 「おいしいですよ!」

 幸せそうに頬張る姿に、奈津は思わず小さく笑ってしまう。

 (……そうだ)

 最初から決めつけていては、何も始まらない。
 奈津は小さく息を吸った。

 「あ、あの……」

 一斉に視線が集まる。
 奈津は少し緊張しながらも、言葉を続けた。

 「皆さん、親切にしてくださってありがとうございます」

 そう言って、一度ぺこりと頭を下げる。

 「でも私……」

 少し迷ってから、奈津は続ける。

 「癒し子だから、じゃなくて」
 「普通に仲良くなれたら、うれしいなって」

 しん、と中庭が静まり返った。

 奈津の胸が、ひやりと冷える。

 ――やっぱり、迷惑だったのだろうか。

 「大層な口叩くようになったじゃねぇの」

 後ろから声が落ちた。