薬湯を卓へ置く。
九重が穏やかに口を開いた。
「奈津様のおかげで、瘴気病そのものは消えています。ですが、長く力を抑え込んでいた反動もある」
「完全に落ち着くまでは、もうしばらく療養していただかないといけません」
紫鬼は小さく眉を寄せた。
どうやら療養生活はあまり好きではないらしい。
奈津は湯飲みを差し出す。
「少し冷ましてあります」
以前、“次は冷ましてくる”と約束した通り。
紫鬼は黙って受け取った。
そのまま薬湯を口へ運ぶ。
熱くはないようだ。
だが。
ほんの僅かに、眉が寄った。
奈津は思わず目を瞬かせる。
――あ。
その表情、同じだ。
今の紫鬼と、少年姿だった頃の紫鬼が重なる。
自然と、笑みが零れた。
「がんばりましたね」
湯飲みを受け取りながら、奈津が言う。
「明日もちゃんと作りますから」
しん、と室内が静まり返った。
夜刀が固まる。
コマもぽかんと口を開けていた。
奈津も数秒遅れて気づく。
(……あ、私……)
泣く子も黙る鬼の王。
そんな相手に、子供みたいなことを。
「……っ、す、すみません!」
慌てて頭を下げる。
「……分かった」
しかし紫鬼は、あっさり頷いた。
「えっ」
今度は奈津の方が目を丸くする。
夜刀が信じられないものを見るような目になった。
「……お前、すげぇな……」
その横で。
九重だけが、堪えるように肩を震わせていた。

