あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜


 
 また河原。

 綾乃は笑顔の裏で、小さくため息を吐いた。

 ここは、元々奈津と洋司がよく会っていた場所だった。

 最初は気分が良かった。

 お姉様の思い出の場所を奪って。
 お姉様の好きだった男を隣へ置いて。

 全部、自分のものにした気がして。

 けれど。
 もう飽きた。

 洋司は会うたび、この河原へ来たがる。
 まるで奈津との思い出へ、未だ縋っているみたいで。
 それが綾乃には、ひどく気に食わなかった。

 夕暮れの風が、二人の間を吹き抜ける。

 その隣で、洋司は沈んだ表情のまま川面を見つめていた。

 「それで……奈津は、まだ見つかってないの?」

 綾乃は少し困ったように眉を下げる。

 「……ええ。私たちも必死で探しているのだけど……」

 悲しげに俯き、声を落とした。

 「まだ、全然見つからなくて……」

 だが実際のところ。
 奈津の両親は、本気で奈津を探してなどいなかった。

 東堂家(キモジジイ)との縁談が消えたことで、金が手に入らなくなった。
 そのことへ腹を立てているばかりだ。

 (――もう、その辺で野垂れ死んでいるかもしれないわ)

 綾乃は内心で冷めたように思う。

 洋司は苦しげに顔を歪めた。

 「俺……あの日、ひどいこと言ったから」

 奈津が姿を消す直前。
 洋司は奈津へ、決定的な言葉をぶつけていた。

 だからこそ。
 彼の中には今も、拭えない不安が残っているのだろう。

 「もしかしたら、俺のせいだったのかなって……」

 弱々しく零された言葉に、綾乃は内心でしらけた。

 (うじうじして、本当面倒)

 そんな顔をするくらいなら、最初から切り捨てなければよかったのに。
 綾乃はそっと洋司へ寄り添う。

 「洋司さんのせいじゃないわ」

 優しく微笑みながら、その腕へ触れる。

 「お姉様、今もどこかで苦しんでいるのかしら……」

 そこで言葉を詰まらせ、伏し目がちに呟いた。

 「……帰ってきてよ、お姉様……」

 か細い、悲しげな声。

 けれど。
 綾乃の胸にあるのは、心配ではなかった。

 (つまらない)

 お姉様の欲しいものだからこそ。
 奪うのが楽しかったのに。

 洋司も。
 両親の愛情も。
 お姉様の居場所も。

 全部。
 壊れていく顔を見るのが、楽しかった。

 綾乃はそっと唇を歪める。

 (ねえ、帰ってきて?)

 そしてまた。
 ――私の玩具になって。