紫鬼は再び九重へ視線を戻す。
「構わん」
短く言い切る。
「続けろ」
九重は静かに頭を下げた。
「地下牢の妖たちが、全員死亡しました」
奈津が息を呑む。
夜刀が忌々しげに舌打ちした。
「牢は閉じたまま、封印も無傷だ。
なのに、全員くたばってやがった」
紫鬼の瞳が鋭く細められる。
九重は続けた。
「押収していた呪具も同様です。封印も術式も破られていない。
――それでも、呪具だけが完全に焼失していました」
落ち着いた声。
けれど、その内容は異様だった。
奈津の背筋へ、ぞくりと寒気が走る。
まるで最初から。
“証拠など残させない”と決められていたみたいに。
「今回の件……分家の妖たちが関与しているのは、ほぼ間違いないでしょう」
九重の声が静かに落ちる。
「ですが、捕らえた者たちはあくまで実行役です」
「背後には、さらに別の存在がいる可能性があります」
奈津の胸が、重く沈んだ。
自分が来たことで。
癒し子として現れたことで。
堂目道家の争いが激しくなってしまったのではないか。
「……私が来たから」
ぽつり、と声が零れる。
全員の視線が奈津へ向いた。
「私がいたから、紫鬼様が狙われて……」
俯いたまま、奈津は続ける。
「堂目道家のみんなまで危険に……」
誰も、すぐには言葉を返さなかった。
「勘違いするな」
その一言に、奈津ははっと顔を上げた。
奈津が顔を上げる。
紫鬼だった。
夜を溶かしたような双眸が、真っ直ぐ奈津を見つめている。
「お前が来たからではない。元より、腐った連中はいた」
淡々とした口調。
けれど、その言葉には揺るぎがなかった。
「――奈津」
名前を呼ばれる。
胸が、大きく跳ねた。
「お前は、俺の隣で堂々としていればいい」
奈津は目を見開く。
まるで、そこがお前の居場所なのだと。
そう告げられた気がした。
喉が、熱い。
うまく言葉にならないまま、奈津は小さく頷く。
しん、と室内が静まり返った。
夜刀が、わずかに目を見張った。
コマもまた、ぱちぱちと瞬きを繰り返している。
そんな中。
九重だけが、静かに微笑みを深めていた。

