あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 地下牢へ駆け込んだ夜刀が、足を止める。

 「……は?」

 低い声には、唖然とする響きが含まれていた。

 牢の中。
 捕らえていた妖たちは、全員動かなくなっていた。

 訓練されていたのであろう。
 捕らえられてなお、最後まで己の責務を果たそうとした者たち。

 だが。
 鉄格子越しに見える顔は、どれも恐怖に引き攣っていた。

 後ろ手に拘束されたまま、床へ倒れ伏している者。
 猿轡の奥から血を滲ませている者。
 縄が深く食い込むほど暴れた跡を残したまま、動かなくなっている者。

 まるで。
 得体の知れない“何か”に、内側から喰い潰されたみたいに。

 見張りについていた鬼妖たちが、青ざめた顔で頭を下げた。

 「わ、我々が交代した頃には、既に……」

 夜刀が眉を顰める。

 牢は閉ざされたまま。
 封印も破られていない。

 それなのに。

 妖たちは、一様に息絶えていた。

 外傷はない。
 牙も抜いていた。
 妖力も封じていた。

 自害など、できるはずがない。

 なのに。
 内側から心臓でも握り潰されたように、妖たちは死んでいた。

 夜刀の金の瞳が、険しく細められる。

 「……どうなってやがる、これは」

 *

 一方、その頃。

 九重は屋敷の奥にある保管庫を訪れていた。

 厳重な封印。
 幾重にも張られた術式。

 その中心へ保管されていたはずの呪具を見た瞬間。

 「……っ」

 九重が僅かに目を見開く。

 そこにあったはずの呪具は、既に形を失っていた。

 黒い灰。
 ただ、それだけが静かに残されている。
 まるで最初から、形など持っていなかったかのように。

 九重は無言のまま膝をつく。
 静かに灰へ触れ、周囲を検分した。

 封印は破られていない。
 侵入の痕跡もない。
 術式にも乱れはなかった。

 それなのに。
 呪具だけが、完全に焼失している。

 九重の瞳が、静かに細められた。

 「……証拠隠滅、ですか」