堂目道家の大広間には、数え切れないほどの妖たちが集まっていた。
静まり返る空間。
誰もが息を潜め、正面の扉を見つめている。
広間を満たすのは、張り詰めた緊張と、どこか祈るような空気だった。
長い間。
誰もが見てきたのだ。
瘴気病に蝕まれ、少しずつ弱っていく主の姿を。
本来の力を抑え込みながら、それでも堂目道家の頂点に立ち続けていた孤高の鬼を。
だからこそ。
誰もが願っていた。
どうか、もう一度。
あの御方が戻ってきてくれることを。
やがて。
重々しい音を立て、広間の扉がゆっくりと開かれる。
先頭へ姿を現したのは、九重だった。
静かな足取りで脇へ控える。
続いて現れた夜刀が、鋭い金の瞳で広間を見渡した。
張り詰めた妖気に、妖たちが思わず息を呑む。
そして。
その奥から、ひとりの妖が姿を現した。
長い白銀の髪。
夜を溶かしたような深い紫の瞳。
本来の姿へ戻った紫鬼だった。
その隣には奈津。
さらに後ろには、ぴたりと寄り添うようにコマが続いている。
九重と夜刀は紫鬼を守るように左右へ控えた。
コマは尾を揺らしながら、二人の背後へ静かに付き従う。
ざわり、と空気が揺れた。
広間へ濃密な妖気が満ちる。
圧倒的な存在感。
ただそこに立っているだけで、空気そのものを支配してしまうような威圧感。
妖たちは息を呑んだ。
「――紫鬼様……!」
誰かの震える声が落ちる。
次の瞬間。
ざざっ、と無数の衣擦れの音が広間へ響いた。
妖たちは一斉に膝をついていた。
深く頭を垂れ、誰ひとり顔を上げようとはしない。
白銀の髪が、静かに揺れる。
その姿はまるで。
永い眠りから目覚めた王そのものだった。
「顔を上げろ」
低い声が、広間へ静かに落ちる。
妖たちははっと顔を上げた。
紫鬼は広間を見渡すように、ゆっくり視線を巡らせる。
「長らく、案じさせた」
低く響く声。
「瘴気病により、皆には少なからず負担をかけたな」
妖たちが息を呑む。
主自ら、そのような言葉を口にするとは思っていなかったのだろう。
だが紫鬼は構わず続けた。
「だが、もう憂う必要はない」
その瞬間。
広間を満たしていた妖気が、びり、と震えた。
圧倒的な力。
けれど以前のような不安定さはない。
研ぎ澄まされた妖力が、静かに広間を満たしていく。
「瘴気病は完治した」

