あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜


 「……紫鬼様」

 奈津は震える手を伸ばした。

 「もう、大丈夫ですから……」

 そっと。
 紫鬼へ触れる。

 その瞬間。

 ――パァァッ。

 眩い光が、一気に部屋中へ広がった。

 「っ……!」

 夜刀たちが思わず目を細める。
 温かい光だった。

 まるで春の日差しのように優しく、それでいて圧倒的な力を秘めた光。
 荒れ狂っていた瘴気が、光へ触れた瞬間、嘘みたいに静まり始める。

 じわじわと。
 黒い痕が消えていく。

 「……まさか……」

 九重が呆然と呟いた。

 瘴気病が、浄化されている。

 完全に不治とされていた病が。
 奈津の力によって。

 そして。
 光が、さらに強く膨れ上がった。

 白銀の髪がふわりと揺れる。
 その身体を包む妖気が、大きく変わっていく。

 「これは……!」

 コマが目を見開いた。

 眩い光の中で、紫鬼の身体がゆっくりと変貌していく。

 幼さを残していた輪郭が薄れ、息を呑むほど美しい青年の姿が現れていく。
 細かった肩が広がり、長い手足がしなやかに伸びる。
 白銀の髪がさらりと揺れた。

 眩い光が、静かに晴れていく。

 そこに立っていたのは、ひとりの青年だった。

 長い白銀の髪。
 夜を溶かしたような深い紫の瞳。
 頭上には、禍々しくも美しい漆黒の鬼角。
 
 そして、息を呑むほど美しい顔立ち。

 放たれる妖気は、先ほどまでとは比べものにならないほど強大で。
 そこにいるだけで、空気そのものを支配してしまうような存在感があった。

 これが。
 堂目道家当主――紫鬼、本来の姿。

 「紫鬼、様……」

 コマが震える声で呟く。
 夜刀も、九重でさえも言葉を失っていた。

 「……っ」
 
 視界が霞む。
 足元から、力が抜けていく。

 ふらりと、奈津の身体が傾いた。

 その身体を、力強い腕が抱き止める。

 「……!」

 奈津を抱き留めたのは、紫鬼だった。
 けれど、その姿はもう、奈津の知る幼い少年のものではない。

 広い胸。
 低い体温。
 以前の少年の姿とは、何もかも違う。

 それなのに。
 奈津を抱く腕だけは、驚くほど優しかった。

 圧倒的な妖気を纏っているはずなのに、不思議と怖くない。

 奈津の瞼が、ゆっくりと落ちていく。

 遠のく意識の中。
 最後に見えたのは、深い紫の瞳だった。