あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜


 「っ……!?」

 侵入者たちの顔色が変わる。

 次の瞬間。

 ――ドォン!!

 凄まじい妖気が解き放たれた。

 空気が爆発したような衝撃が走る。
 部屋中の障子が激しく軋み、床板が震え、天井からぱらぱらと埃が落ちた。

 「な……っ」

 妖のひとりが息を呑む。

 濃密な妖気が、空間そのものを震わせていた。

 重い。
 息が詰まる。
 肺へ鉛を流し込まれたように身体が動かない。

 少年の姿のまま。
 それでも、その場にいる誰よりも圧倒的だった。
 
 濃密な妖気が、空間そのものを震わせている。
 深い紫の瞳が、侵入者たちを冷たく見下ろしていた。

 その視線だけで、本能が理解する。

 ――格が違う。

 これこそが、“鬼”。
 妖たちの王。

 「ぐぁっ……!」

 侵入者たちが一斉に吹き飛ばされる。

 壁へ叩きつけられ、床を転がる。
 立ち上がろうとしても、膨れ上がる妖気に押し潰され、指一本まともに動かせない。

 「が……ぁ……っ」

 呼吸すら苦しい。
 ただそこにいるだけで、全身が軋む。

 まるで、“死”そのものを目の前にしたような、本能的な恐怖。

 「ば、化け物……!」

 ひとりが引き攣った声を漏らした。

 紫鬼の視線が、奈津の首筋へ流れる。
 そこを濡らす赤を見た瞬間。
 妖気が、爆発するように膨れ上がった。

 「塵共が」

 低い声が落ちた瞬間。

 紫鬼から溢れ出した妖気が、侵入者たちへ容赦なく襲いかかる。

 「ぁ、が……っ!」

 悲鳴が上がった。

 骨が軋み、呼吸すらまともにできない。
 侵入者たちは床へ叩き伏せられ、抵抗すら許されない。

 さらに、紫鬼が視線を向けた瞬間。
 逃げ出そうとしていた妖の身体が、見えない何かに叩き潰された。

 「ぎ、ぁっ……!!」

 床へ這いつくばった妖が、恐怖に震えながら紫鬼を見上げる。

 圧倒的だった。
 これが、本来の紫鬼の力。

 病によって封じられ、弱り切っていたはずなのに。
 それでもなお、妖たちでは到底敵わない。

 まさしく、妖の王。

 けれど。

 「……っ、は……」

 紫鬼の呼吸が大きく乱れた。
 その瞬間。
 紫鬼の妖気へ、黒い瘴気が混じり始める。

 「……っ!?」

 奈津は息を呑んだ。

 先ほどまで侵入者たちを圧倒していた妖気が、今度は制御を失ったように荒れ狂い始めている。

 その奥から滲み出すように、黒い瘴気が紫鬼の身体を侵食していった。