あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 妖のひとりが、紫鬼を見下ろした。

 「……瘴気病は本当だったか」

 別の妖が、冷えた目で紫鬼を見る。

 「()()堂目道家当主が、このような姿とはな」
 
 奈津は思わず紫鬼を振り返った。
 
 紫鬼は、深い紫の瞳で侵入者たちを静かに見据えている。
 けれど、その呼吸は明らかに浅かった。

 瘴気病は、まだ完全には治っていない。
 妖のひとりの視線が、奈津へ向けられた。

 「……癒し子。厄介な存在だ」
 
 どうしよう。
 このままでは、紫鬼まで――。
 奈津がじり、と僅かに後ずさった、その時。

 「動くな」

 空を切る音。
 鋭い爪が、奈津のすぐ横へ突き刺さる。

 「っ……」

 全身の血の気が引いた。

 見るからに固く鋭いその爪に裂かれれば、脆い人間の身体などひとたまりもないのだろう。

 「次に動けば、殺す」

 淡々とした声音。

 そこには脅しではなく“実行する前提”の冷酷さがあった。
 妖の視線が、再び紫鬼へ向く。

 「まずはこちらから始末する」

 低い声と共に、鋭い爪が振り上げられた。

 「っ……!」

 奈津は考えるより先に、紫鬼の前へ飛び出していた。

 ――ザシュ。

 鋭い痛み。
 首筋へ浅く爪が掠める。

 「……ぁっ」

 肌を裂き、赤がつう、と首筋を伝った。

 紫鬼の表情が、初めて崩れた。
 奈津の血を見つめたまま、紫鬼はゆっくりと立ち上がる。

 「なっ……」

 侵入者のひとりが息を呑んだ。
 先ほどまで満足に身体を起こすことすら困難だったはずなのに。
 
 「――舐めるな」

 白銀の髪がふわりと揺れ、その隙間から覗く漆黒の鬼角が妖しく浮かび上がる。

 部屋の空気が、凍りついた。