あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜


 
 「――紫鬼様、奈津様。失礼します」

 障子の外から、控えめな声がかかる。
 ゆっくりと障子が開いた。

 「おい、そろそろ時間だ――って……」

 入ってきたのは、コマと夜刀だった。

 二人は、ある光景を前に立ち止まる。

 ――紫鬼が、眠っている。

 紫鬼は瞼を閉じ、静かな寝息を立てていた。
 少しずれた布団を、奈津がその身体へそっとかけ直す。

 夜刀もコマも、ただ黙ったままその光景を見つめていた。

 紫鬼は、元より眠りの浅い方だった。
 瘴気病に侵されてからは、まともな睡眠などほとんど取れていない。
 ましてや、人前で無防備に眠るなど――今まで一度もなかった。

 そして、奈津が振り返る。

 「……あ。先ほど、眠られてしまって……」

 コマの耳がぴんと立つ。

 「えっ……う、嘘……」

 呆然とした声だった。

 「紫鬼様、人前で眠ったりなんて、絶対しなかったのに……」

 その言葉に、奈津は目を丸くした。

 「……え」

 紫鬼を見る。

 静かな寝息。
 眠っている今も、血色はまだ悪い。
 長い睫毛の影が落ちた白い顔には、病の痕が色濃く残っている。

 それでも。
 起きている時の張り詰めた威圧感が薄れているせいか、どこかあどけなさすら感じられた。

 そんなにも、珍しいことだったのだろうか。

 夜刀が僅かに目を細める。

 「……ありえねぇ」

 思わず、というように零れた低い声。
 どこか複雑そうな金の瞳が、眠る紫鬼と、その傍らにいる奈津を静かに見つめていた。

 奈津が来てから。
 紫鬼は、明らかに変わり始めていた。