あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 屋敷の外。
 深い森の奥。

 月明かりすら届かぬ巨木の上から、二つの影が堂目道家を見下ろしていた。

 夜風が枝葉を揺らす。
 二人の妖は、どちらも上質な和装を纏っている。
 額から伸びる鬼の角が、薄闇の中で鈍く光っていた。
 
 「……“癒し子”を迎え入れたという噂、本当だったか」

 「ああ」

 片方の妖は結界を見つめ、静かに目を細めた。

 「さすがに中までは覗けん」
 
 「だが、気配は確認できる」

 低い声が、静かに告げる。

 「“癒し子”は、既に紫鬼の傍へ置かれている」

 僅かな沈黙の末。

 「……厄介だな」

 ぽつり、と声が落ちた。

 「もし本当に、瘴気を祓えるなら」

 最後まで言わず、妖は静かに目を細める。
 その瞳には、冷えた計算と薄い嘲りが滲んでいた。

 「放置する訳にはいかない」

 「ああ」

 短く頷く。

 「“影”を動かすべきだろう」

 片方の妖が、くつりと喉を鳴らした。

 「瘴気病で弱った当主など、もはや時間の問題だと思っていたが……」

 細められた瞳が、堂目道家を見下ろす。
 
 「当主と癒し子……まとめて消してしまうのが一番早い」

 枝葉が揺れる。
 二つの影は、夜の闇へ溶けるように姿を消した。