あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 数日が過ぎた頃には、奈津も少しずつ堂目道家の屋敷へ慣れ始めていた。

 長い渡り廊下。
 庭を抜ける風。
 夜になると灯る青白い灯籠。

 まだ恐ろしさが消えたわけではない。
 けれど以前ほど、怯えてばかりでもなくなっていた。

 「奈津様!」

 ぱたぱたと足音が響く。

 振り返ると、コマが嬉しそうに駆け寄ってきた。
 金色の尾が忙しなく揺れている。

 「紫鬼様、本日は頭痛が軽いそうです!」

 「本当?」

 「はい!」

 コマは満面の笑みで頷いた。

 「先ほども、いつもより瘴気が安定していると九重様が!」

 奈津はほっと息を吐く。

 「……そっか。よかった……」

 自然と笑みが零れた。

 そんな二人の様子を、少し離れた廊下の陰から数人の妖が見ていた。

 皆、堂目道家に仕える妖たちだ。
 だが奈津へ向ける視線には、隠しきれない警戒と嫌悪が滲んでいる。

 「……あのガキ、随分あの人間に懐いてるじゃねぇか」

 くつくつ、と嫌な笑いが漏れる。

 コマは紫鬼直属の使役獣だ。
 それは奈津も、ここ数日の様子で何となく理解していた。

 本来なら、もっと敬われる立場のはずなのだろう。

 けれど妖たちは、子どもの姿をしたコマをどこか軽く扱っているように見えた。

 「夜刀様が見たら、どう思うかねぇ」

 「人間なんざ、信用できるわけねぇだろ」

 別の妖が吐き捨てる。

 「昔からそうだ。自分たちの都合で妖を狩って、恐れて、利用する」

 妖が鼻で笑う。

 「そんな連中を、紫鬼様へ近づけるなんてな」

 「九重様も甘すぎる」

 舌打ちが落ちた。

 奈津の力によって、紫鬼の容態が落ち着き始めていることは、彼らも理解していた。

 それでも。
 “人間”である事実は変わらない。

 「どうせ、何か企んでるに決まってる」

 低く呟いた妖が、にたりと口元を歪めた。

 「……少し痛い目見せりゃ、逃げ帰るんじゃねぇか?」

 その言葉に、不穏な笑いが静かに広がった。