あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜


 
「こちらが、癒し子様のお部屋となります」

 九重に案内され、奈津は客間へ通された。
 広い和室だった。

 柔らかな灯り。
 丁寧に整えられた調度品。
 畳は青く、美しい香りがする。

「あ……」

 奈津は戸惑ったように辺りを見回す。

「すごい……」

 九条家で与えられていた薄暗い部屋とは違う。
 湿気と黴の臭いが染みついたあの部屋より、ここはずっと温かかった。

「何か不足しているものがございましたら、遠慮なくお申し付けください」

 九重は穏やかに微笑む。
 その笑みに、奈津は少しだけ肩の力を抜いた。

「あ、ありがとうございます……」

 そこでふと気づく。
 そういえば、まだ相手の名前しか聞いていない。

「あの……九重さんは、紫鬼様の……」

「側近の一人です」

 九重は静かに答えた。

「幼い頃より、長く紫鬼様のお側に仕えております」

 その声音には、静かな忠誠が滲んでいた。

 奈津は小さく頷く。

「そう、なんですね……」

 九重は柔らかく目を細める。

「コマもまた、紫鬼様にとって大切な存在ですよ」

 あの小さな妖を思い出し、奈津は少しだけ表情を和らげた。
 九重はそんな奈津へ一礼する。

「それでは、ごゆっくりお休みください」

 襖が閉まり、部屋に静寂が落ちた。
 一人になった瞬間、奈津はへなへなと座り込む。

「……なんか、すごいことになっちゃったな……」

 ぽつりと零した声は、広い部屋へ静かに溶けていった。