そんな片想い、偽物だろ

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それからハードな練習が続き、真とは話せないまま、ユニフォームの洗濯やら、グランドの片付けの手伝いやら、仕事に追われていた。

幸いな事に、大きな怪我人や病人が出ることもなく、気づけばもう最終日の練習試合を終え、部屋で休んでいた時だった。

──コンコン

「心、起きてるかー?」

声と同時に部屋の扉が開かれて、慌てて起き上がり返事をする。

「……起きてるけど、どうした?怪我?」

「ちげーよ」

にやりと笑う山崎をみて、なぜか嫌な予感しかしない。

「な、なんだよ」

「練習も終わって、明日は帰るだけ。最終日の夜くらい楽しみたくねえ?」

「いや、俺はいい。大丈夫」

「何言ってんだ、肝試しだぞ」

「……は?」

最終日の夜くらい、一人で静かに過ごしたいんですけど。

「毎年恒例、山の奥の神社に置かれたお札を取ってくるやつ」

「俺、行かない」

「強制参加に決まってんだろ」

ニヤニヤ笑う山崎に、ため息しか出ない。

「そんなの俺、聞いてないんだけど」

「今、言った」

俺は昔から肝試しが得意ではない。
わざわざ怖いところに行く意味がわからない。

「心、お前もしかして……怖いの苦手?」

「べ、別に、行けばいいんだろ」

「じゃ、三十分後。グランド前、集合って事で」

それだけ言って嬉しそうに帰っていく山崎を見送って、さっきよりも大きなため息を吐いた。

……なんで肝試しなんだよ。
キャンプファイヤーとか、星空を見るとか、他に色々あるだろ。

重い足取りでグラウンド前に行くと、既に何人も集まっていた。

その中にすぐに真の姿を見つけてしまう。

真は少し離れたところで、チームメイト達と盛り上がっていた。楽しそうに笑う真を見ただけで、また調子が狂う。

「全員集まったかー?」

山崎が手を叩きながら大きめの声で呼びかけると「おー!」とか「うえーい!」とか口々に返事が集まる。

「押したり走るの禁止。くれぐれも怪我のないように!」

「神社着いたやつは、お札取って帰ること。じゃ、行くぞー!」

山崎を先頭に、ぞろぞろとみんな山道へ入っていく。

「うわ、暗っ」
「絶対なんか出るわこれ」
「お前、先頭行けよ」
「やだよ。俺、普通に怖いし」

そんな騒がしい声を聞きながら、俺は一番後ろをゆっくり歩いてついていく。

……なんでこんな事になってんだ。
今頃は一人でのんびり過ごせていたはずなのに。

懐中電灯の明かりだけを頼りに進む山道は想像以上に暗くて、風の音も足が枝を踏む音も、いちいち心臓に悪い。

しかも前のやつら、進むの早すぎないか?
辺りを見回しても暗闇しかなくて、余計に怖くなっていくだけだった。

無意識に真の姿を探す。
あいつの事だろう、きっとわいわい楽しんでいるに違いない。

「!?うわっ……」

ガサッとすぐ近くで草が揺れて、思わず声が漏れる。

やばい、情けないとか言ってられない。
前の声もだいぶ遠くなった気がする。

……嘘だろ。
置いてかれた?
いや待て、ほんとに?

心細さが込み上げてきて、さっきまで動いていた足が止まった時、

「心?」

すぐ近くから聞こえた声に、心臓が飛び上がりそうになった。

「……っ!?うわっ!?」

声が聞こえた方に恐る恐る懐中電灯を向ける。

「真!?び、びっくりした……」

「それ俺のセリフ。心、一人でなにしてんの?」

「一人じゃないし。勝手にみんなが速いだけ」

「もしかして、怖かったとか?」

そう言って小さく笑う真を見て、さっきまでの恐怖がスッと消えていく。

「別に、暗いのが苦手なんだよ」

「ふっ……ははっ、でもよかった」

今度はお腹を抱えて笑い出す真。

「なんだよ」

こっちは本気で怖かったのに。

「いや、心のこと探してたのに姿見えなかったから」

さらっと言われた言葉に、心臓がまた変な音を立てた。

「ねえ、肝試しやめよ!俺、見せたい場所ある」

「…え、はっ!?」

思考が追いつかないまま、真に手首を掴まれる。
そのまま神社とは別の方向に歩き出した。

さっきよりも暗い山道なのに、前を歩く真の背中と引かれる手首の温もりで、恐怖は全く感じない。
ただ黙って、真の後ろを歩いた。

そのまま数分歩いた所で、ぴたりと真の足が止まった。

「……やば、ほんとに見えた。心、目閉じて」

「は?なんでだよ」

「いいから!大丈夫。ちゃんとこのまま連れてくから」

「わ、わかったよ……ん、閉じたよ」

目を閉じた瞬間、さっきまで手首を掴んでいた真の手がゆっくりと手のひらに降りてきて、ぎゅっと俺の手を握った。

ーーえ?
目を閉じているせいで、手だけに意識が集中して、自分の鼓動の速さが不自然に聞こえてくる。

「少しだけ、歩くよ」

「……うん」

引かれるまま数歩進んだところで、再び足が止まった。

「いいよ。目、開けて」

ゆっくり目を開けた瞬間、一瞬呼吸を忘れた。
さっきまで歩いてきた木々に囲まれた山道とは思えないほど急激に開けた視界。その先には、隣町の街明かりがイルミネーションのように光っている。

「すっごい綺麗……」

「合宿来る前調べたらここ出てきて、心と見たいと思ったんだ」

「……え?」

「だから、来れてよかった」

さすがにずるい。
こんな場所で、手繋いだままそんなこと言うなよ。
期待しそうになるじゃん。

ーーでも、今はこのままでいたい。
そう思って繋いでいる真の手をぎゅっと握った。

「俺も、真と見れてよかった」

真は一瞬、驚いたように目を見開いた。でも、すぐにいつものように微笑んだ。

その顔を見た瞬間、ぎゅっと胸が締め付けられて、
やっぱり俺の片想いは”本物”なんだ。

そう、強く思った。