そんな片想い、偽物だろ


***

あっという間に週末になり、今日は合宿一日目。
今までは、保健室の外の水道の柱の横からぼんやり見ているだけだった。でも、今日は違う。
保健委員として、ベンチで真の姿を目で追っている。

「神谷、止まれ!」
「待て、触るな!」
「やめとけ!」
「無茶だって!」

ボールの音とスパイクの音に混ざって、真を止める声が飛んでいる。白線ぎりぎりのボールを追っている真は、全ての声を無視して、そのまま頭から突っ込んだ。

白線の外に出そうになったボールは、真によって無理やり押し戻される。

「今のデカい!」
「すげえ」
「いや、無茶だろ」
「神谷、大丈夫か?」

笑い混じりの声が飛び交う中で、真は何事も無かったように立ち上がる。その額には、うっすらと血が滲んでいるのに、気にする様子もなく再び走り出した。

「あいつ……またあんな無茶」

また拓也?鈴原とは?
……あいつ、結局どうなんだよ。

いつもより近くで見ていたはずなのに、試合の内容は、ほとんど頭に入っていない。

バスで二時間強、山や川に囲まれて空気の綺麗な場所。せっかくなら散歩くらいはしたいと考えていたのもつかの間、目の前で転ける真を見て、小さくため息が漏れた。

「心、悪い。手当と……これも頼みます」

ハーフタイムを告げる笛が鳴ると、真は申し訳なさそうに、着ているユニフォームに視線を落とす。

「……ぷっ、ははっ、真っ黒」

「笑うなよ」

真のユニフォームはあまりに真っ黒で、思わず吹き出した。そんな俺を見て頬を膨らます真をかわいいと思ってしまう理由は、わかってる。

「まずは手当だろ、行くぞ」

真を連れて部屋に向かった。
この宿泊施設に、保健室はない。

”「ここ、心の部屋な。この部屋を保健室として使ってもらおうと思って、心だけ一人部屋にした」”

到着してすぐ山崎が俺の部屋を保健室にした。
怪我人はまだしも、病人だけは出ないでくれと祈るしかない。

「一人部屋、羨まし。俺もここ泊まろっかな」

「……ちょ、ちょっと待て!上がる前にユニフォーム持ってくるから」

全員分の予備のユニフォームが入れられたボストンの中から、六番を手に取って真に手渡す。

「はい。着替えたら、汚れたのはそのままそこ置いといて」

「おー、さんきゅ」

先に部屋に入って消毒とガーゼの準備をしていると、着替えを終えた真が入ってくる。
真と二人きりなんて普段保健室でもよくあるのに、なぜかいつも以上に緊張していた。

「なんか、いつもと違って緊張する」

ーーえ?
心臓が一気に早くなった。
なんで、同じこと思ってんだよ。

「……き、傷消毒するから、見せて」

と言ったものの、額を見せるために顔を近づけて来る真を見る事ができない。

しかも目開けたまま俺の事見てるし!

「……目、閉じろよ。さすがにやりにくい」

「あ、悪い。心って肌白いよな、近くで見ると、なんかやばい」

ほんとさ、こういうこと誰にでも言うのかな。
俺だけなわけない、か。

「消毒するから、滲みるかも」

うるさい心臓を無視して、消毒をしてガーゼを貼り終える。

「ん、できたよ」

「さんきゅ……あのさ、ちょっと触りたい。いい?」

「え?……っは!?」

一瞬、意味がわからなかった。

直後、俺の頬に向かって真の指がゆっくり伸びてくる。

え、いや、ちょ、ちょっとーー

ーーコンコン

「真!後半始まるぞ」

ドアの外から聞こえてきた山崎の声にはっとして、真から少し距離をとった。

「心、さんきゅ。俺戻るわ!」

それだけ言って真がさっさと出て行ったあとも、しばらく思考が止まったままだった。

頬に熱が残っている感じがして、無意識に両手で顔を覆う。

「……触りたいって、なんだよ」