そんな片想い、偽物だろ

「サッカー部、週末の連休、合宿なんだけど、心来れるよな?」

「はっ?合宿!?」

「二泊三日、頼むよ」

いつメンといつも通りの昼休み……だったはずなのに。山崎の一言で一変した。

「な、なんで俺が?」

「保健の先生来れないらしいし、うちの部マネージャーいないから」

保健委員が合宿なんて普通行かないだろ。

「……俺マネージャーじゃないし」

「心、まじ頼む」

「怪我対応できるやついないと、合宿許可でねえんだって」

つまり、俺がイエスと言わなければ合宿に行けないと言いたいわけか。それってもう、ほぼ強制じゃん。

「……行くのはいいけど、マネージャーとかできないよ、俺」

「まじ!?やっぱ心に聞いてよかった」

「おっしゃ!!マネージャーの仕事はほぼないと思ってくれていい」

「仕事って、神谷の手当くらいじゃね?」

サッカー部の合宿、当然真も来るとわかっていたはずなのに、名前を聞いただけで、心臓が跳ねた。

真とはあの日から顔を合わせていない。
サッカー部の練習を見に行くこともできないままだ。

「俺、顧問に伝えてくる!」

そう言って嬉しそうに席を立つ山崎を見たら、今さら、「やっぱ無理」なんて言えるわけなかった。

***

保健室に向かう足は、いつもより重い。
放課後の賑やかな廊下で、ため息を漏らした。

なんで俺、こんな緊張してんだ。
真が来ると決まってるわけじゃない。
いつも通りにしようと考えれば考えるほど、心臓が変になる。

「心!」

扉に手をかけた瞬間、背後から聞き慣れた声がして、息を止めた。

逃げるように保健室に入る俺を追いかけるように、真の声が続いた。

「合宿、来てくれるって山崎に聞いた」

いつもと変わらない様子で椅子に腰掛ける真をまっすぐ見る事ができない。

あの子とはどうなった?
拓也は?今日、部活は?

「……怪我?」

平然を装って絞り出した言葉。

「違う、心に会いたくて。色々あって最近、話せてないから」

真はこういうことさらっと言うやつだ。
わかっているのに、心臓が騒ぎ出す。

「部活は?」

「今日は、ないよ。心、あのさ……」

「失礼しまーす!……あれ?真くん!?」

真の声に重なるように保健室の扉が開いた。
入ってきたのは鈴原春香で、大事そうに抱えて来た紙袋を差し出された。

「心くん、甘いもの好きって言ってたから良かったらって思って……あ、真くんも一緒に」

「いや、俺は帰るよ!心、また合宿で」

そう言って真はそそくさと保健室を出て行った。

鈴原春香に差し出された紙袋に視線を落とすと、ほんのり甘い香りがただよってきた。……お菓子?

「真に渡したかったんじゃないの?」

「あ、ううん。いいの、でも……なんかごめんね、迷惑だったかな」

そう言って俯く春香。
こういう時どうしたらいい?

「あー、いや、そんなことないと思うよ。これ俺、もらっていいの?」

「えっ?受け取ってくれるの!?」

「あー、うん。せっかく持ってきてくれたんだし」

真、帰っちゃったし。
……って俺なに言ってんだろ。
鈴原春香は、ライバルなのに。

嬉しそうに目を輝かせる鈴原をみて、良い事をしたんだと思った。

……この時は。

保健室を出ていく鈴原の背中を見送りながら、さっきの真の言葉の続きが気になっていた。

受け取った紙袋には小さなマドレーヌが入っていて、なんとも言えない気持ちで、ひとつ頬張る。

「……うま」

ライバルのマドレーヌの味は、とても美味しくて、それを俺が食べている事がなんだか申し訳なかった。