【side真】
そんな片想い”偽物”じゃん。
そう思った俺は、変なのかな────
俺は、ずっと片想いをしている。
サッカーをしている時はもちろん。
怪我をして笑われても、変なやつだと言われても、いつだって頭の中には拓也様がいた。
それはずっと変わらない。
……はずだった。
あいつに出会うまでは。
「神谷、またやってるよ」
「普通にキモくね?」
「まじ変なやつ」
大体の人は俺を笑う。
いつもの事だ。そう思って、やり過ごしてきた。
なのに、あいつは違った。
「無茶だろ、さすがに」
呆れた顔で言うくせに、笑わないし否定もしない。
「後先考えろって、何回言えばいい?」
そう言いながらいつもちゃんと手当してくれる。
気付いた時には、時々見せる心の笑顔が楽しみになっていた。
心の笑顔が増える度、拓也様は減って行くのに、保健室に向かう足を止めることはできなかった。
心に会えるならそれでよかった。
ーーなのに、あの日から、心との関係が少しずつ変わり始めた。
「あの、神谷くん!」
部活に向かう途中の階段の手前で、呼び止められて足を止めた。振り返った先にいたのは、話した事もない女の子。
え、誰この子。
俺じゃない神谷って名前のやつがいるのかもしれない。そう思って、辺りを見回しても俺と目の前のその子、二人だけ。
「えっと、俺ですか?」
「あ、うん。ちょっとお願いがあって」
初対面だよな?
いや、もしかしたら俺が覚えてないだけなのかもしれない。
「俺ら、話したことあったけ?」
「あっ、ごめんなさい。話した事、ないかも」
俺、早く部活行きたいんだけどな。
さっきまで浮かんでた拓也様が消えないうちに……。
「俺、これから部活あるんだけど……」
「引き止めちゃってごめんなさい、えっと、桐谷 心くんと仲良いよね」
その名前を聞いた瞬間、心臓が嫌な音を立てた。
嫌な予感って、まさに今の俺にぴったりな言葉かもしれない。
「まあ、俺めっちゃ怪我するから」
なぜか答えたくなくて、無意識に濁していた。
「私、心くんが好き……で」
ああ、やっぱり聞きたくなかった。
俺に話していったいどうしたいんだろう。
「あの協力して欲しいって言うか……私、話しかけたりとか、いつもできないから……。だめかな?」
初対面の俺に普通に話しかけてるじゃん。そもそも話した事ないのに好きって、なんだよそれ。って本当は言いたかった。
でも、真っ赤になって俯く女の子にきつい事は、さすがに言えなくて飲み込んだ。
「協力って、どんな?」
「好きな人いるのかとか、タイプとか……教えて欲しい、なんでも」
それこそ自分で聞いた方が良くない?と思いながら、状況を理解しきれず言葉に詰まった。
「……えーっと」
「あの、たまにでいいから」
そういう問題じゃないんだけどな。
「俺、昼休みも練習あるし、そんな話したりできないし……」
「それでもいいよ。あ、一緒に帰ったりとか、できる?」
断りたいのに、上手い断り方が浮かんでこなかった。
「あー、練習終わってからなら」
「じゃあその…連絡先交換いい?」
「あー、えっと……うん。」
そういえば俺、心の連絡先知らないや。
嬉しそうにスマホを差し出してくる鈴原を見て、後悔が押し寄せてくる。
なんで俺、こういう時いつもきっぱり断れないんだろ。
そもそも、話した事もない相手を好きとか、そんな片想い”偽物”じゃん。
……って、俺も同じか。
拓也様は、話す事すらできない相手。
ただの憧れをつい最近まで恋だと思っていたんだから。
”本物”の片想いってたぶん。
「……俺」
「えっ?」
目の前の声にはっとして我に返ったのは、”鈴原 春香”という連絡先が追加されたあとだった。
嬉しそうに去っていく彼女の背中を見送ってから、気づけば屋上に向かっていた。
大好きなサッカーの練習を、サボったのは初めてだった。
きっと認めたくなかったんだと思う。
いつからだったかも、わからない。
「……俺は、心が好きだ」
鈴原春香の恋の応援なんてできない。
だって、俺の片想いは”本物”だ。
***
結局、鈴原から何度かメッセージが来たり、たまに一緒に帰ることもあった。
会話の内容のほとんどは、心のこと。
鈴原から心の名前を聞く度、胸がズキズキして、もう限界だったんだと思う。
「私、心くんに好きって伝えるよ」
「……え?」
「それでね、心くんに──」
「俺、もう協力できない」
それ以上は聞きたくなくて、鈴原の言葉を遮った。
「今さらごめん。中途半端な返事して、期待させたくせに、俺、何もできない」
鈴原は俺を責めなかった。
何かを察してるみたいに笑った。
「……ははっ、いいけど、振られちゃったら、慰めてよね!…って冗談」
”振られちゃったら”
その言葉に、心の言葉が重なる。
”真の気持ちなんて、どうせ全部”偽物”だろ”
心にあんな事を言わせたのは、たぶん俺だ。
でも……確かに傷ついた。
なのに、俺も鈴原に同じ事を思ったりした。
「鈴原、怖くないの?」
「は?怖いに決まってんじゃん!でも……ライバルに先越されたくないし」
「ライバル?」
「……冗談だって!じゃ、私そろそろ行くね」
俺の肩をぽん、とたたいて、鈴原は歩き出した。
俺は……”偽物”とか”本物”とかそんなことばかり考えていた。
話したこともない相手。
漫画のキャラクター。
そんなの違うって、決めつけてた。
でも、違った。
鈴原が心を好きな気持ちも。
俺が拓也様に憧れてた気持ちも。
そして、心を好きになった気持ちも。
誰かを想う気持ちに、
“偽物”も”本物”もない。
ただ、好きだって気持ちだけだ。
そんな片想い”偽物”じゃん。
そう思った俺は、変なのかな────
俺は、ずっと片想いをしている。
サッカーをしている時はもちろん。
怪我をして笑われても、変なやつだと言われても、いつだって頭の中には拓也様がいた。
それはずっと変わらない。
……はずだった。
あいつに出会うまでは。
「神谷、またやってるよ」
「普通にキモくね?」
「まじ変なやつ」
大体の人は俺を笑う。
いつもの事だ。そう思って、やり過ごしてきた。
なのに、あいつは違った。
「無茶だろ、さすがに」
呆れた顔で言うくせに、笑わないし否定もしない。
「後先考えろって、何回言えばいい?」
そう言いながらいつもちゃんと手当してくれる。
気付いた時には、時々見せる心の笑顔が楽しみになっていた。
心の笑顔が増える度、拓也様は減って行くのに、保健室に向かう足を止めることはできなかった。
心に会えるならそれでよかった。
ーーなのに、あの日から、心との関係が少しずつ変わり始めた。
「あの、神谷くん!」
部活に向かう途中の階段の手前で、呼び止められて足を止めた。振り返った先にいたのは、話した事もない女の子。
え、誰この子。
俺じゃない神谷って名前のやつがいるのかもしれない。そう思って、辺りを見回しても俺と目の前のその子、二人だけ。
「えっと、俺ですか?」
「あ、うん。ちょっとお願いがあって」
初対面だよな?
いや、もしかしたら俺が覚えてないだけなのかもしれない。
「俺ら、話したことあったけ?」
「あっ、ごめんなさい。話した事、ないかも」
俺、早く部活行きたいんだけどな。
さっきまで浮かんでた拓也様が消えないうちに……。
「俺、これから部活あるんだけど……」
「引き止めちゃってごめんなさい、えっと、桐谷 心くんと仲良いよね」
その名前を聞いた瞬間、心臓が嫌な音を立てた。
嫌な予感って、まさに今の俺にぴったりな言葉かもしれない。
「まあ、俺めっちゃ怪我するから」
なぜか答えたくなくて、無意識に濁していた。
「私、心くんが好き……で」
ああ、やっぱり聞きたくなかった。
俺に話していったいどうしたいんだろう。
「あの協力して欲しいって言うか……私、話しかけたりとか、いつもできないから……。だめかな?」
初対面の俺に普通に話しかけてるじゃん。そもそも話した事ないのに好きって、なんだよそれ。って本当は言いたかった。
でも、真っ赤になって俯く女の子にきつい事は、さすがに言えなくて飲み込んだ。
「協力って、どんな?」
「好きな人いるのかとか、タイプとか……教えて欲しい、なんでも」
それこそ自分で聞いた方が良くない?と思いながら、状況を理解しきれず言葉に詰まった。
「……えーっと」
「あの、たまにでいいから」
そういう問題じゃないんだけどな。
「俺、昼休みも練習あるし、そんな話したりできないし……」
「それでもいいよ。あ、一緒に帰ったりとか、できる?」
断りたいのに、上手い断り方が浮かんでこなかった。
「あー、練習終わってからなら」
「じゃあその…連絡先交換いい?」
「あー、えっと……うん。」
そういえば俺、心の連絡先知らないや。
嬉しそうにスマホを差し出してくる鈴原を見て、後悔が押し寄せてくる。
なんで俺、こういう時いつもきっぱり断れないんだろ。
そもそも、話した事もない相手を好きとか、そんな片想い”偽物”じゃん。
……って、俺も同じか。
拓也様は、話す事すらできない相手。
ただの憧れをつい最近まで恋だと思っていたんだから。
”本物”の片想いってたぶん。
「……俺」
「えっ?」
目の前の声にはっとして我に返ったのは、”鈴原 春香”という連絡先が追加されたあとだった。
嬉しそうに去っていく彼女の背中を見送ってから、気づけば屋上に向かっていた。
大好きなサッカーの練習を、サボったのは初めてだった。
きっと認めたくなかったんだと思う。
いつからだったかも、わからない。
「……俺は、心が好きだ」
鈴原春香の恋の応援なんてできない。
だって、俺の片想いは”本物”だ。
***
結局、鈴原から何度かメッセージが来たり、たまに一緒に帰ることもあった。
会話の内容のほとんどは、心のこと。
鈴原から心の名前を聞く度、胸がズキズキして、もう限界だったんだと思う。
「私、心くんに好きって伝えるよ」
「……え?」
「それでね、心くんに──」
「俺、もう協力できない」
それ以上は聞きたくなくて、鈴原の言葉を遮った。
「今さらごめん。中途半端な返事して、期待させたくせに、俺、何もできない」
鈴原は俺を責めなかった。
何かを察してるみたいに笑った。
「……ははっ、いいけど、振られちゃったら、慰めてよね!…って冗談」
”振られちゃったら”
その言葉に、心の言葉が重なる。
”真の気持ちなんて、どうせ全部”偽物”だろ”
心にあんな事を言わせたのは、たぶん俺だ。
でも……確かに傷ついた。
なのに、俺も鈴原に同じ事を思ったりした。
「鈴原、怖くないの?」
「は?怖いに決まってんじゃん!でも……ライバルに先越されたくないし」
「ライバル?」
「……冗談だって!じゃ、私そろそろ行くね」
俺の肩をぽん、とたたいて、鈴原は歩き出した。
俺は……”偽物”とか”本物”とかそんなことばかり考えていた。
話したこともない相手。
漫画のキャラクター。
そんなの違うって、決めつけてた。
でも、違った。
鈴原が心を好きな気持ちも。
俺が拓也様に憧れてた気持ちも。
そして、心を好きになった気持ちも。
誰かを想う気持ちに、
“偽物”も”本物”もない。
ただ、好きだって気持ちだけだ。



