***
「心、昼飯は?食わないの?」
「うん、腹減ってないから」
「なんか顔色悪いぞ」
普段から大食いではないが、昼を抜くなんてことは今までなかった。
そんな俺を心配してくれているとわかっているのに、山崎の言葉を鬱陶しく思ってしまう。
なんて、自分勝手なんだろう。
「大丈夫。ありがとな」
それだけ言って、視線を向けた窓の外。
いつもならグラウンドで、自主練をしているはずの真の姿はなかった。
「神谷が昼休みグラウンドいないって珍しいよな」
俺の横から覗き込むようにして窓の外に視線を向ける山崎を、ちゃんと見ることが出来なかった。
「……そうだな」
「朝練の時もなんか様子おかしくてさ元気ないっつーか……お前ら、なんかあった?」
話すべきなのかもしれない。
山崎ならきっと、ちゃんと聞いてくれる。
でも、全てを話すなんて今は無理だ。
「何もないよ。……でも、ちょっと調子悪いかも。保健室で寝てくる」
「ああ……無理すんなよ」
山崎の視線から逃げるように立ち上がって、保健室へ向かった。
今日はサボろう。
こんなに何もやる気が湧かないなんて初めてだった。
────
──コンコン
「失礼します……」
ノックの音と聞き慣れた声が聞こえてきて、重い瞼を開けた。
視界に入ってきたのは、白い天井と蛍光灯、カーテンに囲まれたベッド。
……そうだ、保健室だ。
俺、昼休みから寝てたんだっけ。
寝ぼけた意識の中で、少しずつ状況を理解しはじめる。
「誰も、いない?」
カーテン越しに聞こえてくる声は、考えなくてもすぐに誰なのかわかる。
真が来るなんて、もう放課後?
また怪我したのか?
でも、どんな顔で会えばいい?
ベッドに入ったままアタフタと考えていた時、カーテン越しに見える真の影がゆっくりと、こちらに向かって近づいて来る。
え!?
まさか、こっち来ないよな。
「誰かいるの?」
カーテンに手がかけられたのが見えて、とっさに目を閉じた。
「……心、寝てる?」
真の声が近くに聞こえて、見られていると思うと目を開けることが出来ない。
ふいに、すっと真の手が近づいて来る気配を感じた。
──え?
「あのさ……俺…」
そう小さく呟きながら真の手がかすかに頬に触れた瞬間、保健室の扉が開いた。
「心ー!体調どうだー?」
ビクッと肩が跳ねたと同時に、閉じていた目を思わず開くと、目の前に目を見開いて固まった真が立っている。
真は逃げ場を探すみたいにキョロキョロと視線を泳がせたあと、
「あ、ごめん……俺、ちょっと隠して」
そう言って俺の布団の中に、潜り込んで来た。
「え!?はあっ!?ちょ……」
「心、開けるぞー!」
言葉とほぼ同時にカーテンが開けられると、心配そうな顔をした山崎が立っている。
「どうだ?」
「だ、大丈夫、もう」
布団の中の真を意識した瞬間、言葉に詰まる。
「ほんとかよ、帰れそうか?歩くのきつそうなら──」
「大丈夫!ほんとに」
この状況を早く切り抜けたくて、必死にアピールすればするほど山崎の顔は険しくなっていく。
「……ほんとに大丈夫か?」
どうしたらいいんだよ。
しかも真、さすがに近すぎるだろ。
「一緒に帰るか?俺、部活終わったし、心ももう帰るだろ」
一緒に帰る、それだ!それしかない。
でもどうやって布団から出る?
先に保健室を出てもらう良い方法は……これに、賭けるしかない。
「帰る!……けど俺、汗かいたから着替えたくて…でもジャージ教室で…悪いんだけど、取ってきてもらえないかな?」
頼む、取ってくると言ってくれ。
「ジャージだな。取ってくるから待ってろ」
そう言い残して山崎はバタバタと保健室を出て行った。
その瞬間、安堵したのもつかの間、意識が一気に布団の中に向いて、さっきとは別の意味で鼓動が速くなる。
「……お、おい、真」
──っ!?
声をかけた瞬間、布団から出るどころか、さっきよりも強い力でぎゅっと引き寄せられた。
「……っ、離せよ。山崎戻ってくる前に早く帰れって…俺せっかく…」
「ごめん、五秒だけ動かないで」
動くなって、なんだよそれ。
布団の中で真がどんな顔をしているのかすら、わからない。
やっぱり、真がわからない。
少しして、引き寄せられていた体がゆっくり離れた。
布団から出てきた真は、
「……じゃあな、心」
それだけ言って、保健室を出て行った。
その数分後、戻って来た山崎と一緒に学校を出た。
それから家に帰ってもずっと、真の「またな」が「じゃあな」だった事が胸に引っかかっていた。
「心、昼飯は?食わないの?」
「うん、腹減ってないから」
「なんか顔色悪いぞ」
普段から大食いではないが、昼を抜くなんてことは今までなかった。
そんな俺を心配してくれているとわかっているのに、山崎の言葉を鬱陶しく思ってしまう。
なんて、自分勝手なんだろう。
「大丈夫。ありがとな」
それだけ言って、視線を向けた窓の外。
いつもならグラウンドで、自主練をしているはずの真の姿はなかった。
「神谷が昼休みグラウンドいないって珍しいよな」
俺の横から覗き込むようにして窓の外に視線を向ける山崎を、ちゃんと見ることが出来なかった。
「……そうだな」
「朝練の時もなんか様子おかしくてさ元気ないっつーか……お前ら、なんかあった?」
話すべきなのかもしれない。
山崎ならきっと、ちゃんと聞いてくれる。
でも、全てを話すなんて今は無理だ。
「何もないよ。……でも、ちょっと調子悪いかも。保健室で寝てくる」
「ああ……無理すんなよ」
山崎の視線から逃げるように立ち上がって、保健室へ向かった。
今日はサボろう。
こんなに何もやる気が湧かないなんて初めてだった。
────
──コンコン
「失礼します……」
ノックの音と聞き慣れた声が聞こえてきて、重い瞼を開けた。
視界に入ってきたのは、白い天井と蛍光灯、カーテンに囲まれたベッド。
……そうだ、保健室だ。
俺、昼休みから寝てたんだっけ。
寝ぼけた意識の中で、少しずつ状況を理解しはじめる。
「誰も、いない?」
カーテン越しに聞こえてくる声は、考えなくてもすぐに誰なのかわかる。
真が来るなんて、もう放課後?
また怪我したのか?
でも、どんな顔で会えばいい?
ベッドに入ったままアタフタと考えていた時、カーテン越しに見える真の影がゆっくりと、こちらに向かって近づいて来る。
え!?
まさか、こっち来ないよな。
「誰かいるの?」
カーテンに手がかけられたのが見えて、とっさに目を閉じた。
「……心、寝てる?」
真の声が近くに聞こえて、見られていると思うと目を開けることが出来ない。
ふいに、すっと真の手が近づいて来る気配を感じた。
──え?
「あのさ……俺…」
そう小さく呟きながら真の手がかすかに頬に触れた瞬間、保健室の扉が開いた。
「心ー!体調どうだー?」
ビクッと肩が跳ねたと同時に、閉じていた目を思わず開くと、目の前に目を見開いて固まった真が立っている。
真は逃げ場を探すみたいにキョロキョロと視線を泳がせたあと、
「あ、ごめん……俺、ちょっと隠して」
そう言って俺の布団の中に、潜り込んで来た。
「え!?はあっ!?ちょ……」
「心、開けるぞー!」
言葉とほぼ同時にカーテンが開けられると、心配そうな顔をした山崎が立っている。
「どうだ?」
「だ、大丈夫、もう」
布団の中の真を意識した瞬間、言葉に詰まる。
「ほんとかよ、帰れそうか?歩くのきつそうなら──」
「大丈夫!ほんとに」
この状況を早く切り抜けたくて、必死にアピールすればするほど山崎の顔は険しくなっていく。
「……ほんとに大丈夫か?」
どうしたらいいんだよ。
しかも真、さすがに近すぎるだろ。
「一緒に帰るか?俺、部活終わったし、心ももう帰るだろ」
一緒に帰る、それだ!それしかない。
でもどうやって布団から出る?
先に保健室を出てもらう良い方法は……これに、賭けるしかない。
「帰る!……けど俺、汗かいたから着替えたくて…でもジャージ教室で…悪いんだけど、取ってきてもらえないかな?」
頼む、取ってくると言ってくれ。
「ジャージだな。取ってくるから待ってろ」
そう言い残して山崎はバタバタと保健室を出て行った。
その瞬間、安堵したのもつかの間、意識が一気に布団の中に向いて、さっきとは別の意味で鼓動が速くなる。
「……お、おい、真」
──っ!?
声をかけた瞬間、布団から出るどころか、さっきよりも強い力でぎゅっと引き寄せられた。
「……っ、離せよ。山崎戻ってくる前に早く帰れって…俺せっかく…」
「ごめん、五秒だけ動かないで」
動くなって、なんだよそれ。
布団の中で真がどんな顔をしているのかすら、わからない。
やっぱり、真がわからない。
少しして、引き寄せられていた体がゆっくり離れた。
布団から出てきた真は、
「……じゃあな、心」
それだけ言って、保健室を出て行った。
その数分後、戻って来た山崎と一緒に学校を出た。
それから家に帰ってもずっと、真の「またな」が「じゃあな」だった事が胸に引っかかっていた。



