そんな片想い、偽物だろ

***

「心、昼飯は?食わないの?」

「うん、腹減ってないから」

「なんか顔色悪いぞ」

普段から大食いではないが、昼を抜くなんてことは今までなかった。
そんな俺を心配してくれているとわかっているのに、山崎の言葉を鬱陶しく思ってしまう。
なんて、自分勝手なんだろう。

「大丈夫。ありがとな」

それだけ言って、視線を向けた窓の外。
いつもならグラウンドで、自主練をしているはずの真の姿はなかった。

「神谷が昼休みグラウンドいないって珍しいよな」

俺の横から覗き込むようにして窓の外に視線を向ける山崎を、ちゃんと見ることが出来なかった。

「……そうだな」

「朝練の時もなんか様子おかしくてさ元気ないっつーか……お前ら、なんかあった?」

話すべきなのかもしれない。
山崎ならきっと、ちゃんと聞いてくれる。
でも、全てを話すなんて今は無理だ。

「何もないよ。……でも、ちょっと調子悪いかも。保健室で寝てくる」

「ああ……無理すんなよ」

山崎の視線から逃げるように立ち上がって、保健室へ向かった。

今日はサボろう。
こんなに何もやる気が湧かないなんて初めてだった。

────

──コンコン

「失礼します……」

ノックの音と聞き慣れた声が聞こえてきて、重い瞼を開けた。
視界に入ってきたのは、白い天井と蛍光灯、カーテンに囲まれたベッド。

……そうだ、保健室だ。
俺、昼休みから寝てたんだっけ。

寝ぼけた意識の中で、少しずつ状況を理解しはじめる。

「誰も、いない?」

カーテン越しに聞こえてくる声は、考えなくてもすぐに誰なのかわかる。

真が来るなんて、もう放課後?
また怪我したのか?
でも、どんな顔で会えばいい?

ベッドに入ったままアタフタと考えていた時、カーテン越しに見える真の影がゆっくりと、こちらに向かって近づいて来る。

え!?
まさか、こっち来ないよな。

「誰かいるの?」

カーテンに手がかけられたのが見えて、とっさに目を閉じた。

「……心、寝てる?」

真の声が近くに聞こえて、見られていると思うと目を開けることが出来ない。

ふいに、すっと真の手が近づいて来る気配を感じた。

──え?

「あのさ……俺…」

そう小さく呟きながら真の手がかすかに頬に触れた瞬間、保健室の扉が開いた。

「心ー!体調どうだー?」

ビクッと肩が跳ねたと同時に、閉じていた目を思わず開くと、目の前に目を見開いて固まった真が立っている。

真は逃げ場を探すみたいにキョロキョロと視線を泳がせたあと、

「あ、ごめん……俺、ちょっと隠して」

そう言って俺の布団の中に、潜り込んで来た。

「え!?はあっ!?ちょ……」

「心、開けるぞー!」

言葉とほぼ同時にカーテンが開けられると、心配そうな顔をした山崎が立っている。

「どうだ?」

「だ、大丈夫、もう」

布団の中の真を意識した瞬間、言葉に詰まる。

「ほんとかよ、帰れそうか?歩くのきつそうなら──」

「大丈夫!ほんとに」

この状況を早く切り抜けたくて、必死にアピールすればするほど山崎の顔は険しくなっていく。

「……ほんとに大丈夫か?」

どうしたらいいんだよ。
しかも真、さすがに近すぎるだろ。

「一緒に帰るか?俺、部活終わったし、心ももう帰るだろ」

一緒に帰る、それだ!それしかない。
でもどうやって布団から出る?
先に保健室を出てもらう良い方法は……これに、賭けるしかない。

「帰る!……けど俺、汗かいたから着替えたくて…でもジャージ教室で…悪いんだけど、取ってきてもらえないかな?」

頼む、取ってくると言ってくれ。

「ジャージだな。取ってくるから待ってろ」

そう言い残して山崎はバタバタと保健室を出て行った。

その瞬間、安堵したのもつかの間、意識が一気に布団の中に向いて、さっきとは別の意味で鼓動が速くなる。

「……お、おい、真」

──っ!?

声をかけた瞬間、布団から出るどころか、さっきよりも強い力でぎゅっと引き寄せられた。

「……っ、離せよ。山崎戻ってくる前に早く帰れって…俺せっかく…」

「ごめん、五秒だけ動かないで」

動くなって、なんだよそれ。
布団の中で真がどんな顔をしているのかすら、わからない。
やっぱり、真がわからない。

少しして、引き寄せられていた体がゆっくり離れた。

布団から出てきた真は、

「……じゃあな、心」

それだけ言って、保健室を出て行った。

その数分後、戻って来た山崎と一緒に学校を出た。
それから家に帰ってもずっと、真の「またな」が「じゃあな」だった事が胸に引っかかっていた。