「え? 練習試合……だよね?」
土曜日。いそいそとバレー部の試合を観に来たわけだけど、正門をくぐった時点で異様な空気を感じた。
駐車場には、学校名の書かれた大型バスが二台停まっている。一台は県外のナンバープレートだ。バス以外にも、たくさん車が停まっていた。
体育館を覗くと、ユニフォーム姿の選手たちがアップをしている。バレーボールコートを二面設営しているけど、それでも窮屈そうだ。体育館に入りきらなかった選手は、中庭でもアップをしていた。
規模感がすごい。まるで公式試合のような賑わいだ。まさか練習試合で、こんなにも人が集まるなんて思わなかった。
「強豪校って、すげぇ」
俺はビクビクしながら、人の流れに沿って二階のギャラリーへ向かった。
コートがよく見える位置を陣取って、試合が始まるのを待っていると、ジャージを着た二人組の男子が隣にやって来た。
「ここ空いてんじゃん。ベスポジじゃね?」
「だなー。ここにすっか」
隣に人がやってくると、つい気になってしまう。聞いたら悪いと思いつつも、話が耳に入ってしまった。
「今日集まってんのって、笹高と習高と倉高だろ? 公式戦だったら、どことも当たりたくないわー」
「全国大会常連だもんな。当たったら俺らのチームは惨敗っしょ」
ハハッと乾いた笑いを浮かべる二人。口ぶりからして、試合に出ている三校のチームメイトではなさそうだ。ただの見物人か、はたまた他校の偵察部隊か。
第一試合の開始時刻になると、笹高と習高の選手がエンドラインに並ぶ。その中には、黒いユニフォームを着た高瀬がいた。
練習着もカッコいいけど、ユニフォーム姿はさらにカッコよく見える。10番の背番号もさまになっていた。
「あれ? 笹高は一軍じゃなくね? ハーフっぽいでっかい奴は公式戦で見たことあるけど」
「二軍つーか、二年が出るらしいよ。第一試合は」
「あー、なるほど」
なるほど、と俺も頷いてしまう。だから見知った顔が並んでいるのか。牧野も、小林も、大黒もいた。
エンドラインに立った高瀬は、顔を上げて二階のギャラリーを見回している。俺を探してくれているのか? 小さく手を振ってみると、ぱちっと目が合った。
――頑張れよ。見てるから。
ぐっと拳を握ってガッツポーズをする。高瀬はぴりっとした空気を纏いながらも頷いた。
試合開始のホイッスルが鳴ると、相手選手とネット前で挨拶を交わす。そこで俺は、「え」と声を漏らしてしまった。
相手チームの選手、でかくないか? 全体的に身長が高いが、その中でもとくに大きい選手が二人いる。180センチ後半、いや、190センチ越えかもしれない。
「習高のミドル、でけえー」
「ありゃ壁だな」
ギャラリーたちも、相手チームのでっかい選手に注目していた。
身長は適わないけど、高瀬には人間離れした跳躍力がある。絶対に負けない。そう信じながら、試合を見守った。
サーブは相手チームから始まる。声援に包まれる中、力強いサーブが放たれた。
後衛にいた選手がレシーブでボールを拾うと、セッターの牧野に繋ぐ。軽やかにトスが上がると、高瀬が走り出した。
見せてやれ。お前のジャンプを。
ワクワクしながら見守る。俺の脳内では、高瀬のスパイクが華麗に決まるシーンが浮かんだ。相手チームは、圧倒されるに違いない。
――バアアンッ。
決まった、と思いきや、ボールが落ちたのは笹高側のコート。早すぎて何が起きたのか分からなかった。
相手チームを見ると、背の高い二人がネット前で両手を上げている。
「うわ……あのブロックは隙がない」
隣にいたギャラリーの言葉を聞いて、ブロックで止められたことを理解した。
あれだけ背が高いんだ。そういうこともある。次だ、次。切り替えていこう。
もう一度サーブが飛んできて、レシーブで受ける。牧野に繋ぐと、高瀬に短いトスが上がった。
今度こそ決まる、と期待していたが、またしてもブロッカーに止められてしまう。跳ね返されたボールを、後衛の選手がレシーブで上げて態勢を立て直したが、今度は高瀬にはボールが回らなかった。ライト側からズドーンと強烈なスパイクが決まる。
「クロ、ナイスキー!」
笹高のベンチから盛大に声援が飛び交う。こちらに得点が入ったが、俺はいまいちテンションが追いつかずにいた。
なんだろう、この感じ……。
咄嗟に高瀬の顔を見る。高瀬は表情を崩さず大黒とハイタッチを交わしていた。
最初に感じた嫌な予感は、徐々に確信へと変わっていく。
――バアアンッ。
二面ブロックでスパイクを止められる。まただ。高瀬は何度もスパイクを決めようとしたが、ことごとくブロックされていた。
壁が、高すぎる。高瀬の脚を持ってしても、高い壁を越えられずにいた。
「10番、完全にマークされてんな」
「えっぐ……。あんなに止められたら心折れそう」
かわいそー、と肩を竦めるギャラリーを見て、俺は肝が冷えていった。
そうか。高瀬はマークされているのか。上手い選手だから警戒されるのは仕方ないけど、あんなに執拗に付かれたら堪ったもんじゃないだろう。
だけど、打てるチャンスはあるはず。ブロックが手薄になったタイミングで、決めればいいんだ。
そのチャンスは、すぐにやってきた。相手のブロッカーが大黒に付こうとしたタイミングで、牧野が美しい放物線を描いて高瀬にトスを上げる。
しかし高瀬の踏み込むタイミングが遅れて、上手く飛べなかった。ボールがネットに引っ掛かり、床に落ちる。その瞬間、牧野がギィッと高瀬を睨みつけた。
「ひよってんじゃねーよ!」
普段は冷静な牧野が感情を爆発させている。それだけ打たせたい局面だったのだろう。周りが「まあ、まあ」と牧野を宥めたところで、一度タイムに入った。
ベンチでの会話は、こちらには聞こえない。だけど何となく、高瀬が怒られているような気がした。
今、高瀬は何を考えているんだろう?
コートにいる高瀬は、ふにゃふにゃと笑うことも、しゅんと肩を落とすこともないから、感情が読めなかった。あいつのメンタルは、大丈夫なのか?
心配しているうちにも、試合が再開する。そこからは、高瀬にトスが上がる機会が格段に減った。
5対9、8対15、と得点差が開いていく。
途中で大黒が大砲のようなバックアタックを決める場面や、レシーブで弾かれたボールを小林がコートの外まで追いかけて繋ぐ場面や、牧野がツーでアタックを決める場面もあったが、試合の流れは相手チームにあった。
「エースが決められないと、士気下がるよなー」
「あと5センチ高ければ、もっと楽に戦えただろうに」
ギャラリーたちの言葉で、目の前がどんどん暗くなっていく。
――高瀬、このまま終わっていいのかよ?
コートの中で、飛べずにいる高瀬を見つめる。瞳の奥では、これまで見てきた青すぎる光景が蘇ってきた。
俺はずっと、隣のコートから高瀬を見てきた。コートの中でカッコよくスパイクを決める姿だけじゃない。
体育館の隅でひたすらスクワットしている姿も、ボックスに飛び乗って跳躍力を鍛えている姿も何度も目にしてきた。
それだけじゃない。一年の頃にスタメンに入れなくて体育倉庫でこっそり泣いていた姿も、実は陰から見ていたんだ。
苦しんで、足掻きながらも、必死に高みを目指してきたんだろう? こんなところで終わっていいはずがない。お前はもっと、高いところまで飛んでいける。その脚で。
バクバクと暴れまわる心臓を押さえながら、肺の奥まで息を吸い込む。高瀬、と叫びそうになったが、すんでのところで思いとどまった。
苗字で呼んだら、ブロックで捕まる。別の呼び方で。
もう一度大きく息を吸い込んでから、俺は思いっきり叫んだ。
「飛べ、駿介! 打ち抜けぇぇー!」
ハッと顔をあげる高瀬。その眼差しは、はっきりと俺を捉えていた。
時が止まったかのように見つめ合う。世界で二人きりになったような気がした。
ホイッスルが鳴ったところで、時間が動き出す。すると、高瀬の強張っていた表情筋が緩んだ。
ふにゃふにゃとゆるい笑顔を浮かべる高瀬。それは、教室で俺に見せる顔と一緒だ。
なんだ、今の?
戸惑っているうちにも、相手チームからサーブが飛んでくる。高瀬は笑顔を引っ込めてボールを見据えた。
小林がレシーブで拾い、牧野がトスを上げる。大黒がバックアタックを打ったが、決めきれずにレシーブで拾われてしまった。
相手チームから強烈なスパイクが飛んでくる。小林が吹っ飛ばされながらも上げて、牧野に繋いだ。その瞬間、レフトにいた高瀬が走り出した。
「マキィ!」
コートネームを呼びながら、ライト側まで駆け抜ける高瀬。片足で床を踏み込んで、手を振り上げた先には、ボールがあった。
相手チームのブロッカーも飛んだが、反応が遅れている。今この瞬間、コートの中では、高瀬が一番高い。壁を越えた先で、力強く打ち抜いた。
――ズドーンッ。
ホイッスルが鳴る。高瀬が得点を入れた。会場のあちこちから歓声が湧く。高瀬も拳を突き上げて、雄叫びをあげていた。
「すっげえー! ブロードじゃん。あんな技隠し持ってたんだ!」
「打点高え! 片足であんなに高く飛ぶ?」
なんだかよく分からないけど、高瀬はすごい技をやってのけたらしい。素人から見ても、あれはすごかった。
ここは思いっきり声援を送る場面だろうけど、俺は声を出せなかった。へなへなと力が抜けて、床にしゃがみ込んでしまう。
――やばい。カッコよすぎる。好きになりそうだ。
ドッドッドッと暴れ回る心臓を押さえる。喜びを抑えきれずチームメイトと抱き合う高瀬を見ていると、余計に胸が苦しくなった。
――違うな。俺は、とっくに高瀬に惚れていたんだ。一年の頃から、ずっと。
興奮の最中で、俺はようやく自分の気持ちに気付いた。
この気持ちを伝えたら、高瀬はどんな反応をするだろう? 気持ち悪いと引かれるかな?
いや、高瀬なら、真剣に受け止めてくれるような気がした。
土曜日。いそいそとバレー部の試合を観に来たわけだけど、正門をくぐった時点で異様な空気を感じた。
駐車場には、学校名の書かれた大型バスが二台停まっている。一台は県外のナンバープレートだ。バス以外にも、たくさん車が停まっていた。
体育館を覗くと、ユニフォーム姿の選手たちがアップをしている。バレーボールコートを二面設営しているけど、それでも窮屈そうだ。体育館に入りきらなかった選手は、中庭でもアップをしていた。
規模感がすごい。まるで公式試合のような賑わいだ。まさか練習試合で、こんなにも人が集まるなんて思わなかった。
「強豪校って、すげぇ」
俺はビクビクしながら、人の流れに沿って二階のギャラリーへ向かった。
コートがよく見える位置を陣取って、試合が始まるのを待っていると、ジャージを着た二人組の男子が隣にやって来た。
「ここ空いてんじゃん。ベスポジじゃね?」
「だなー。ここにすっか」
隣に人がやってくると、つい気になってしまう。聞いたら悪いと思いつつも、話が耳に入ってしまった。
「今日集まってんのって、笹高と習高と倉高だろ? 公式戦だったら、どことも当たりたくないわー」
「全国大会常連だもんな。当たったら俺らのチームは惨敗っしょ」
ハハッと乾いた笑いを浮かべる二人。口ぶりからして、試合に出ている三校のチームメイトではなさそうだ。ただの見物人か、はたまた他校の偵察部隊か。
第一試合の開始時刻になると、笹高と習高の選手がエンドラインに並ぶ。その中には、黒いユニフォームを着た高瀬がいた。
練習着もカッコいいけど、ユニフォーム姿はさらにカッコよく見える。10番の背番号もさまになっていた。
「あれ? 笹高は一軍じゃなくね? ハーフっぽいでっかい奴は公式戦で見たことあるけど」
「二軍つーか、二年が出るらしいよ。第一試合は」
「あー、なるほど」
なるほど、と俺も頷いてしまう。だから見知った顔が並んでいるのか。牧野も、小林も、大黒もいた。
エンドラインに立った高瀬は、顔を上げて二階のギャラリーを見回している。俺を探してくれているのか? 小さく手を振ってみると、ぱちっと目が合った。
――頑張れよ。見てるから。
ぐっと拳を握ってガッツポーズをする。高瀬はぴりっとした空気を纏いながらも頷いた。
試合開始のホイッスルが鳴ると、相手選手とネット前で挨拶を交わす。そこで俺は、「え」と声を漏らしてしまった。
相手チームの選手、でかくないか? 全体的に身長が高いが、その中でもとくに大きい選手が二人いる。180センチ後半、いや、190センチ越えかもしれない。
「習高のミドル、でけえー」
「ありゃ壁だな」
ギャラリーたちも、相手チームのでっかい選手に注目していた。
身長は適わないけど、高瀬には人間離れした跳躍力がある。絶対に負けない。そう信じながら、試合を見守った。
サーブは相手チームから始まる。声援に包まれる中、力強いサーブが放たれた。
後衛にいた選手がレシーブでボールを拾うと、セッターの牧野に繋ぐ。軽やかにトスが上がると、高瀬が走り出した。
見せてやれ。お前のジャンプを。
ワクワクしながら見守る。俺の脳内では、高瀬のスパイクが華麗に決まるシーンが浮かんだ。相手チームは、圧倒されるに違いない。
――バアアンッ。
決まった、と思いきや、ボールが落ちたのは笹高側のコート。早すぎて何が起きたのか分からなかった。
相手チームを見ると、背の高い二人がネット前で両手を上げている。
「うわ……あのブロックは隙がない」
隣にいたギャラリーの言葉を聞いて、ブロックで止められたことを理解した。
あれだけ背が高いんだ。そういうこともある。次だ、次。切り替えていこう。
もう一度サーブが飛んできて、レシーブで受ける。牧野に繋ぐと、高瀬に短いトスが上がった。
今度こそ決まる、と期待していたが、またしてもブロッカーに止められてしまう。跳ね返されたボールを、後衛の選手がレシーブで上げて態勢を立て直したが、今度は高瀬にはボールが回らなかった。ライト側からズドーンと強烈なスパイクが決まる。
「クロ、ナイスキー!」
笹高のベンチから盛大に声援が飛び交う。こちらに得点が入ったが、俺はいまいちテンションが追いつかずにいた。
なんだろう、この感じ……。
咄嗟に高瀬の顔を見る。高瀬は表情を崩さず大黒とハイタッチを交わしていた。
最初に感じた嫌な予感は、徐々に確信へと変わっていく。
――バアアンッ。
二面ブロックでスパイクを止められる。まただ。高瀬は何度もスパイクを決めようとしたが、ことごとくブロックされていた。
壁が、高すぎる。高瀬の脚を持ってしても、高い壁を越えられずにいた。
「10番、完全にマークされてんな」
「えっぐ……。あんなに止められたら心折れそう」
かわいそー、と肩を竦めるギャラリーを見て、俺は肝が冷えていった。
そうか。高瀬はマークされているのか。上手い選手だから警戒されるのは仕方ないけど、あんなに執拗に付かれたら堪ったもんじゃないだろう。
だけど、打てるチャンスはあるはず。ブロックが手薄になったタイミングで、決めればいいんだ。
そのチャンスは、すぐにやってきた。相手のブロッカーが大黒に付こうとしたタイミングで、牧野が美しい放物線を描いて高瀬にトスを上げる。
しかし高瀬の踏み込むタイミングが遅れて、上手く飛べなかった。ボールがネットに引っ掛かり、床に落ちる。その瞬間、牧野がギィッと高瀬を睨みつけた。
「ひよってんじゃねーよ!」
普段は冷静な牧野が感情を爆発させている。それだけ打たせたい局面だったのだろう。周りが「まあ、まあ」と牧野を宥めたところで、一度タイムに入った。
ベンチでの会話は、こちらには聞こえない。だけど何となく、高瀬が怒られているような気がした。
今、高瀬は何を考えているんだろう?
コートにいる高瀬は、ふにゃふにゃと笑うことも、しゅんと肩を落とすこともないから、感情が読めなかった。あいつのメンタルは、大丈夫なのか?
心配しているうちにも、試合が再開する。そこからは、高瀬にトスが上がる機会が格段に減った。
5対9、8対15、と得点差が開いていく。
途中で大黒が大砲のようなバックアタックを決める場面や、レシーブで弾かれたボールを小林がコートの外まで追いかけて繋ぐ場面や、牧野がツーでアタックを決める場面もあったが、試合の流れは相手チームにあった。
「エースが決められないと、士気下がるよなー」
「あと5センチ高ければ、もっと楽に戦えただろうに」
ギャラリーたちの言葉で、目の前がどんどん暗くなっていく。
――高瀬、このまま終わっていいのかよ?
コートの中で、飛べずにいる高瀬を見つめる。瞳の奥では、これまで見てきた青すぎる光景が蘇ってきた。
俺はずっと、隣のコートから高瀬を見てきた。コートの中でカッコよくスパイクを決める姿だけじゃない。
体育館の隅でひたすらスクワットしている姿も、ボックスに飛び乗って跳躍力を鍛えている姿も何度も目にしてきた。
それだけじゃない。一年の頃にスタメンに入れなくて体育倉庫でこっそり泣いていた姿も、実は陰から見ていたんだ。
苦しんで、足掻きながらも、必死に高みを目指してきたんだろう? こんなところで終わっていいはずがない。お前はもっと、高いところまで飛んでいける。その脚で。
バクバクと暴れまわる心臓を押さえながら、肺の奥まで息を吸い込む。高瀬、と叫びそうになったが、すんでのところで思いとどまった。
苗字で呼んだら、ブロックで捕まる。別の呼び方で。
もう一度大きく息を吸い込んでから、俺は思いっきり叫んだ。
「飛べ、駿介! 打ち抜けぇぇー!」
ハッと顔をあげる高瀬。その眼差しは、はっきりと俺を捉えていた。
時が止まったかのように見つめ合う。世界で二人きりになったような気がした。
ホイッスルが鳴ったところで、時間が動き出す。すると、高瀬の強張っていた表情筋が緩んだ。
ふにゃふにゃとゆるい笑顔を浮かべる高瀬。それは、教室で俺に見せる顔と一緒だ。
なんだ、今の?
戸惑っているうちにも、相手チームからサーブが飛んでくる。高瀬は笑顔を引っ込めてボールを見据えた。
小林がレシーブで拾い、牧野がトスを上げる。大黒がバックアタックを打ったが、決めきれずにレシーブで拾われてしまった。
相手チームから強烈なスパイクが飛んでくる。小林が吹っ飛ばされながらも上げて、牧野に繋いだ。その瞬間、レフトにいた高瀬が走り出した。
「マキィ!」
コートネームを呼びながら、ライト側まで駆け抜ける高瀬。片足で床を踏み込んで、手を振り上げた先には、ボールがあった。
相手チームのブロッカーも飛んだが、反応が遅れている。今この瞬間、コートの中では、高瀬が一番高い。壁を越えた先で、力強く打ち抜いた。
――ズドーンッ。
ホイッスルが鳴る。高瀬が得点を入れた。会場のあちこちから歓声が湧く。高瀬も拳を突き上げて、雄叫びをあげていた。
「すっげえー! ブロードじゃん。あんな技隠し持ってたんだ!」
「打点高え! 片足であんなに高く飛ぶ?」
なんだかよく分からないけど、高瀬はすごい技をやってのけたらしい。素人から見ても、あれはすごかった。
ここは思いっきり声援を送る場面だろうけど、俺は声を出せなかった。へなへなと力が抜けて、床にしゃがみ込んでしまう。
――やばい。カッコよすぎる。好きになりそうだ。
ドッドッドッと暴れ回る心臓を押さえる。喜びを抑えきれずチームメイトと抱き合う高瀬を見ていると、余計に胸が苦しくなった。
――違うな。俺は、とっくに高瀬に惚れていたんだ。一年の頃から、ずっと。
興奮の最中で、俺はようやく自分の気持ちに気付いた。
この気持ちを伝えたら、高瀬はどんな反応をするだろう? 気持ち悪いと引かれるかな?
いや、高瀬なら、真剣に受け止めてくれるような気がした。



