勝手に射抜いてんじゃねぇよ


 ゴールデンウィーク真っ只中。カラオケのパーティールームの隅っこに座る俺は、来て間もないのに、今すぐ帰りたいと思っている。
 「みんなー、今日は2組決起集会に参加してくれてありがとー!!」
マイクを持つ里村の声が響き渡る。
「いぇーい!!」
 里村の呼びかけで、40人中30人のクラスメイトがカラオケ兼決起集会に集まった。決起集会は、ゴールデンウィーク明けにある球技大会に向けてのことだ。

 こんな集まるとか…どんだけ仲良いんだよ、このクラス。

 冷めた表情の俺は、元々参加する気なんか無かった。というか、今この瞬間も参加する気は無い。
「宗馬、何歌う?」
隣に座る桔平が聞いてくる。
「歌わねぇよ」
「俺とデュエットする!?」
「嫌だわ。罪滅ぼしに俺の代わりに1人で歌っとけよ」
 罪滅ぼしの理由は簡単。里村に参加の有無を聞かれた桔平が、勝手に俺と一緒に参加すると返事したからだ。


 しばらくして、盛り上がるクラスメイトたちを横目に、コップを持ち部屋を出た。

 ドリンクバーの前で悩んでいたら「どれで迷ってんの?」と、コップを持った里村がやってきた。
「どの味にするか悩んでるだけ」
「俺が決めてやるよ!」
「…えっ…」
そう言って俺のコップを奪い、勝手にボタンを押した里村。
…こいつ、まじふざけんなよ。

 「はい!俺のおすすめミックスドリンク!ちょー美味いから」
自信満々な顔で渡され、怒る気も失せてしまう。
 自分用のドリンクを入れる里村の後ろで、一口飲んでみた。
「…うまっ」
俺の言葉に勢いよく振り返った里村。
「だろ!その味知っちゃったら、もう普通のドリンクには戻れねーぞ」
「あはっ、それは大袈裟」
「…やっと笑った」
「え?」
里村は優しい表情で俺を見ている。
「俺、今のクラスになって、唯一荒木の笑った顔だけ見たことなかったんだよ。だからやっと見れて、すげー嬉しい!」
「…っ」
無邪気な笑顔を向けられ、恥ずかしくなる。

 そんなことを思われていたなんて、考えてもみなかった。
「…んだよそれ」
 赤くなりそうな顔を下に向けながら、部屋に向かい歩き始めた。里村も後ろを付いてくる。
「もぉ、置いてくなよー。なぁ、1曲一緒に歌おうぜ!」
「やだ」
「えー、いいだろー?」



 ゴールデンウィークが明けて2日後の今日は、校内の球技大会。
 授業もなく、スポーツをして応援する、楽しいだけの行事に2組の面々は、朝からハイテンションだった。もちろん、みんなを率先して盛り上げるのは里村。
「絶対総合優勝するぞー!!」
「おぉー!!」

 「荒木、これで頼むな」
開会式が行われるグラウンドに移動する際、ジャージ姿の担任からデジカメを手渡された。
「はい」
「遠目からとアップめ、両方あると助かる」
「了解です」
 写真部という理由で、学校のSNSや学級通信用の撮影を任された。おそらく大賀や先輩たちも、それぞれの担任から頼まれているはず。

 開会式が終わり、桔平と体育館へ移動する。所属する部の種目には出られないため、桔平は俺と一緒にバレーに出ることになった。
「イノッチもバレーって言ってたよな」
「井ノ口背高いし、俺らのアタック全止めされそう」
「それな」

 バレーの1試合目が開始されると、バスケに出場するクラスの奴らが声援を送ってきた。
「2組、がんばー!」
「いけいけー!」
 普段ふざけているクラスほど、こういう時の一致団結力は、ずば抜けている。律儀に反応する桔平の横で、勝敗なんてどうでもいいと思う俺。

 自分の試合がない合間に、バスケや卓球の様子を撮りに回った。連れ回すのは申し訳ないから、桔平は他の友達と好きに動いてもらうことにしている。

 ーとりあえず、バスケと卓球はOKかな。次の試合までまだ時間あるし、サッカー撮り行くか。

 グラウンドのサッカーコート近くに移動し、明るさや色味を調整するため、カメラを構えた。
 シャッターを押そうとした瞬間、バッと里村の顔がドアップで液晶モニターに映し出された。
「うわぁっ…!」
「そんな驚かなくても」
「…急にフレームインしてくんな」
「いいな、そのフレームインって響き!」
「…。つーか、試合は?」
「この後!…あ、ちょうど前の試合が終わったみたいだな。んじゃ、俺たちの勇姿をばっちり撮ってな!」
 颯爽とコート内に駆けていく里村の後ろ姿を何となく撮った。

 試合中の里村は、ある意味期待を裏切らない。
 「おっしゃ、いけいけ!」「コレコレ、ナイスパス!」「そのままシュートだぁー!」
 安定の大声で、チームを盛り上げている。鼓舞されたコレコレたちの表情は生き生きしていて、撮るのが楽しくなるほどだった。


 ひと通り撮影し終え、体育館に戻りながら撮った写真を確認する。
「…。」
里村のピンショットで、ふと指が止まった。
 そこには、静止画なのに今にも動き出しそうなぐらいはしゃぐ里村が写っている。
 すげぇ良い笑顔。何でこんな楽しそうなんだろ。


 試合に出る俺は、誰かにカメラを渡そうと周りを見た。
「荒木、俺持っとくよ!」
ちょうど応援に駆けつけた里村が近寄ってきた。
「あ、ありがと」
「なぁ、これって俺が撮っても大丈夫?」
「え?」
「だって荒木撮ってるばっかで、全然自分写ってねーじゃん?だから、俺が荒木を撮る!センスないけどな」
「いや、俺は撮らなくていいって…」
「いいからいいから!はい、頑張れー!」
「えっ、あっ…」
強引にコート内へ押されてしまった。

 数分が経過し、俺は全く試合に集中できていなかった。
 里村からの視線がレンズ越しに伝わってきて、恥ずかしさから変な緊張をしている。
ーいつまでカメラ向けてんだよ。俺の写真なんか1枚撮っときゃ十分だろ。

 やっと撮るのをやめた里村は、人一倍大きな声援を送り続けている。

 試合も終盤、俺はチラッとコート外を見た。
「…。」
 多分、体育館内の誰も気付いていない。里村の視線が数秒おきに俺に向けられていることを。
 写真を撮り終えた今、俺を見る必要なんかないのに。

…ドクドクドク…

 この激しくなる鼓動は、きっと見られている恥ずかしさと気まずさからだ。…絶対そうだ。

 つーか、真剣でも笑顔でもない、その表情なんだよ…。知らないお前をこれ以上教えてくんなって…。