勝手に射抜いてんじゃねぇよ


 翌週の水曜日。先週北海道にいたとは思えないほど、何の変化もない普通の学校生活を過ごしている。…いや、変化はあったのかもしれない。
 大賀の話によると、3組内でカップルが2組成立したらしい。2組は、新たな恋愛はなかったものの、みんなの距離が縮まり、もっと騒がしくなった。

 「かわいいの付けてますね。北海道で買ったんですか?」
放課後、写真部の部室で後輩の女子が聞いてきた。俺のカメラケースに付いているシマエナガのキーホルダーのことを言っている。
「あぁ、うん、まぁ…」
歯切れの悪い返事をしてしまう。だって、正しくは里村が買ったものだから。
 修学旅行最終日に学校から帰る時に里村が渡してきたのが、このシマエナガのキーホルダー。お礼の連絡した際、帰りの空港で買ったことと、お揃いだということを知らされた。
 ちなみに、里村は弓道で使う矢筒というものに付けたらしい。

 「そういえば、先輩の撮った写真、校内でバズってますね」
「え、何が?」
「学校のSNS見てないんですか?前に先輩たちが撮影した各部活の写真が、先月から学校のSNSに順番に載っていってるんですよ」
「あ、そうなの?」
「で、一昨日アップされた弓道部の写真が、めちゃくちゃいいねされてて。特に里村先輩の写真が女子たちに大好評らしいです。あれって、荒木先輩が撮ったやつですよね?」
「弓道部なら俺だと思う…」
 手元のスマホでSNSを開いた。大半の生徒が学校のSNSをフォローしてると前に大賀が言っていたが、俺はフォローどころか見たこともなかった。
 検索をかけ、アカウントを見つけた。
「あ、これか」
最新の投稿には、確かに里村の弓を引く横顔が載っていた。俺のイチオシ写真の内の一つ。
 …そっか、これをみんなが…。
学校用に撮ったものだから、公開されるのは当たり前だし、不特定多数に見られることは里村だって分かっている。…なのに、自分の中で微かなモヤモヤが生まれた。
「…。」



 翌朝の電車内、見知らぬ3年の女子たちが見ているスマホ画面が視界に入った。そこには、SNS上であの里村の写真が表示されている。
 盛り上がる女子たちを見て、思わずワイヤレスイヤホンを外し、会話を盗み聞きしてしまった。
「この里村くん、やばいよね」
「うんうん。普段からカッコいいけど、これはまた違うカッコ良さだよねぇ」
「今日の放課後、練習見に行っちゃおっかな」
「それは邪魔になるしダメでしょ。ま、行きたい気持ちは分かるけど」
 「…。」
サッカー部や野球部と違い、ふらっと遠くから見に行ける場所じゃなくてよかったと、何故か俺が安心してしまう。


 「荒木、おはよう!」
登校してきた俺に、里村はいつも通り明るく挨拶をする。
「おはよ」
…自分の写真がバズってんの、里村は知ってんのかな。まぁ、学校のSNSフォローしてそうだし、周りの奴らが教えてそうだよな。それに、わざわざ俺に言ってくるような事でもないし。
 「どうかした?」
里村が顔を覗き込んできた。
「え、いや、何もない」
「ふーん。…あ、今日2人で昼ご飯食べない?」
「うん、いいよ」


 昼休み、空き教室のエアコンのスイッチを押し、生ぬるさを早く無くすため窓を開けた。そして、1つの机に向かい合い、それぞれ弁当とパンを食い始めた。

 里村と2人きりになるのは、修学旅行初日以来。色々話したい事があるはずなのに、俺の口から出たのは…
「…真那斗の写真、学校内でバズってんだろ?」
「あぁ、らしいな!宗馬のセンスの良さがみんなに伝わってんだろうな」
「ちげぇよ。真那斗のかっこよさが、さらに広まったって話じゃん。これでもっとモテモテの人気者になるな」

…違う、こんな事が言いたいわけじゃない。

 「…宗馬は、俺にモテモテの人気者でいてほしいわけ?…ていうか、朝元気ない感じしたの、この話題関係あったりする?」
里村は落ち着いたトーンで聞いてくる。普段の様子からは考えられないが、里村は意外と冷静で周りを見ているタイプだ。だから、今朝の俺の雰囲気を見て、昼飯に誘ったんだと思う。
「関係…なくは…ない」
「自分の撮った写真が褒められんの嬉しくなかった?」
「俺の写真のセンスや技術が褒められたんじゃなくて、真那斗の姿が褒められたんだって、あれは。…普通はさ、自分の付き合ってる相手がイケメンだとか褒められたら嬉しいんだろうけど、弓道してる時の真那斗のカッコ良さは、あんま知られたくなかったっつーか…。悪りぃ、完全にめんどくせぇこと言ってるわ俺」
「それって、ヤキモチというか、俺を独占したいって話だよな?」
「独占…まぁ、そうなんのかな」
「やば、めっちゃ嬉しい!」
里村は笑顔を見せた。
「え」
「宗馬が俺のことすげー好きなのが分かって、めっちゃテンション上がってる!…独占欲出たり、嫉妬したり、不安になったり…。恋愛してたらぶち当たる壁をさ、こうやって言葉に出して、2人で消化していけたらいいなって思ってんだけど、どう?」
「…いいと思う」
「よかった。…俺、宗馬の無駄なこと言わない感じ好きだけど、モヤモヤしたり、なんか引っかかったりした時は、遠慮なくすぐ言ってほしい。てゆうか、もっと甘えていいから!会いたいとか、こうしてほしいとか、じゃんじゃん言って。感情の共有していこ!」
「…あはっ」
里村の言葉に思わず笑ってしまった。
「ちなみに俺は、定期的に2人で昼ご飯食べたいし、今以上に好きって伝えたいし、あとは…今度家に来てほしい」
「え…」
里村って自分の家にいる苦手っぽいのに、俺が行っていいんかな。
 そんな俺の考えを里村は見透かしていた。
「家にいるのそんな好きじゃねーけど、宗馬が来てくれたら好きな空間に変わっていくと思う。それにウチなら誰にも邪魔されないから、好きなだけイチャつけるしな!」
「そっちが目的かよ」
「ははっ、そういうお年頃じゃん?」
ニヤッと悪い顔をされて、ドキッとした。

 弓道中の美しい里村を知られてモヤつくなんて、今思えば馬鹿馬鹿しいな。だって、他の奴らが知らないこいつの一面を俺はたくさん知ってるし、これからもっともっと知っていけるんだから。
 それに、里村の感情はいつだって俺を向いている。こんな安心材料があんのに、マイナスの感情を持つなんて勿体無い。

 「やっぱ真那斗には敵わねーわ」
「え、なにが!?」
「つーか、俺だって昼一緒に食いてーし、弓道してるとこもっと見てぇし…いっぱい触れ合いたいから…」
「やば、俺めっちゃ愛される。…誰もいないし、キスしとくか!」
「ムードの欠片もない誘い方だな」
「いいじゃん、ムードあったら止まんなくなるし」
「…。」

…ちゅっ…


 あの日、俺の心に突き刺さった矢は、里村と一緒にいる限り、一生抜けることはない。